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財務の「Shrink to Grow」による経営革新事業再生の手法を経営に生かす

松本 渉
松本 渉
パートナー / 東京オフィス

財務のShrink to Growとは

 
経営が安定した企業であっても、「Shrink to Grow」(成長のために一度かがむ)戦略が必要な局面では事業再生の手法が有効になる。前稿では組織構造改革(組織/ヒトのShrink to Grow)について述べたが、今回はキャッシュフロー改革(財務/カネのShrink to Grow)について成功の要諦を述べたい。利益が出ていても資産規模が大きすぎて企業価値が低い場合や、株主等からROIC(投下資本利益率)の改善を求められる場合など、抜本的な財務変革が必要な局面では、事業再生で用いられるキャッシュフロー改革の手法が有効だ。

経営者はキャッシュフローの実態把握から逃げてはいけない

 
キャッシュフロー改革では、まずキャッシュの出入りを合理的に予測することが出発点だ。多くの企業では資金繰りリスクを避けるために、資金にバッファを持たせて過剰な現預金を確保していることが多い。しかし、過大なバッファは無駄な現預金を企業に滞留させることを意味し、キャッシュフロー経営の観点からは望ましくない。資金収支を合理的に予測する仕組みがあれば、過剰なバッファを設定しなくて済む。

資金収支の合理的な予測を難しくする要因は、大きく2つある。一つは財務部門のノウハウのブラックボックス化だ。企業は資金収支予測を財務担当の属人的な「職人技」に依存しがちだ。しかし「職人技」は精度に個人差があるし、学習による精度の向上が期待しにくい。だから経営者も、どのような枠組みで資金収支を把握しているのか大枠を理解すべきだし、予測と実績がどれぐらい乖離したか・なぜ乖離したかを組織的に把握する仕組みが必要だ。そしてその方法論をTry and Errorを通じて改善していく。財務と経営の連携を密にし組織的学習を続ければ精度は大幅に向上する。両者の橋渡しに第三者のアドバイザーを起用してもよい。

二番目の要因は、連結子会社、特に海外拠点やM&Aを通じてグループ内に入った企業との連携不足だ。親会社と子会社の間で事業や資金の流れが違うため、キャッシュフロー把握のための共通言語やプロセスができていないケースが多い。しかも、システムが古くて対応できないからという理由で改善が手つかずになっていまいがちだ。しかし、各社のトップがしっかりとコミットして親子会社間で共通言語の構築を進めれば現行システムでも改善が可能なケースも多い。

資産売却でクイックヒットを確保し、設備投資の見極めで大幅に刈り取る

 
上記のようにキャッシュフローの実態把握によりバッファを減らすと同時に、キャッシュフローを増やす活動にも着手する必要がある。

まずクイックヒットをもたらすのが資産の売却だ。遊休化している固定資産や、保有する必然性が薄い有価証券、換金化できる滞留在庫等はないか。徹底的に洗い出せばかなりの資金が捻出できる。

通常最も資金インパクトが大きいのは設備投資の見極めだ。多くの企業は膨大な設備投資案件リストを抱えているが、各案件が投資対効果をきちんと可視化・検証している例は稀で、予算の枠内なら前例踏襲がまかり通っているケースが殆どだ。逆にこれらをゼロベースで見直せば30%程度の投資節減に繋がることも少なくない。

最後に運転資金の圧縮だ。特に在庫の圧縮は難易度が高く、販売予測から調達予測、調達実行から販売実行までの一連のプロセスを抜本的に見直し、サプライチェーンの再設計を行う必要が生じる場合も多い。中期的な目標として腰を据えて取り組む必要がある。

キャッシュフロー改革は戦略的な成長投資への布石になる

 
キャッシュフロー改革は専門性の高い分野でもあるので、CFOや財務部門に任せきりになりがちだ。しかし上記の通り財務部門単独で判断・推進できる問題は少なく、丸投げすれば小さな成果で終わってしまう。COO/事業部門とCFO/財務部門の共同プロジェクトとして立ち上げ、両者の橋渡しができる人材を登用して密に協業させながら推進する必要がある。

逆に、キャッシュフロー改革をやり切りCOO/事業部門とCFO/財務部門の連携力が高まれば、その後のGrowの検討においてもメリハリのある資源配分を行いやすくなり、新たな成長を実現する非常に大きな力になる。キャッシュフロー改革を検討する企業は、そのような組織能力の向上も視野に入れて本気で取り組んでいただきたい。

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