小野寺智史
小野寺智史
プリンシパル / 東京オフィス

巨大市場が動く予兆

 
国内BtoC物販EC市場は直近10年に亘り年平均10%弱の成長を継続してきているが、EC化率は中国・北米には遠く及んでいない。
しかしながら、新型コロナの拡大を契機に、この構造を揺るがす兆候が表れている。「新たなEC利用者の流入」と「食料品のEC化率」の高まりである。

“Withコロナ”環境は、巣ごもり消費という言葉に表現される通り、生活者を半ば強制的に実店舗からオンラインへの移行を進めた。それは若い世代のみならず、中高年齢層においても明確に現れている。国内人口の3分の1を占める高年齢層もいよいよオンライン消費へと動き出している。

他方、前述した国内EC化率の低さの一因としては、約45兆円[1]という莫大な市場規模を誇る食料品のEC化率が極めて低いことが挙げられる。食料品は依然として実店舗での購買が中心であり、その購買者に占める割合は高齢者が多い。

“Withコロナ”は、ここにも大きな変化をもたらしている。これまで年平均1%程度の成長に留まっていた食料品のECは、2020年は2019年比で13%成長[2]にまで引き上げられたのである。

[1] 経産省 商業動態統計
[2] 株式会社矢野経済研究所 2021年度の国内食品通販市場

 

高齢者と食料品という、消費者・カテゴリの2大市場が同時にオンライン化へ加速している。食料品は、現時点ではAmazon、楽天、Yショッピング!が占めるシェアも低位に留まる。物販ECにおける今後の主戦場となることは明らかである。

「UX」こそが勝敗を分ける鍵

 
国内では都市部のネットスーパー形態が先行した食料品ECであったが、ネットスーパーが持つ「配達スピード」の弱点を突く形で様々なプレイヤーが参入してきている。

「スピード」は注文してから手元に届くまでの時間という、わかりやすい要素であり価値訴求も容易い。即時に届けられるケイパビリティは消費者が望む時間に受け取れるという柔軟な配達時間設定も可能とする。
しかしながら、「スピード」だけでユーザーが満足することはない。買い物をする体験全体、つまり「UX(ユーザー・エクスペリエンス)」こそが今後の食料品ECの勝敗を分ける鍵だと考える。

自社のサービスを利用するユーザーにとって、購入欲が喚起されるものであるか、直接手に取れない中でも品質の安心感を得られるものになっているか、購入決定までの操作にストレスは感じないか、そして、その一連のプロセスに「買い物の楽しさ」を感じることができるか。
こういったことを、追求しきったサービスはまだ現れていない。

「スピード」競争の果て

 
現在の競争軸は、圧倒的に「スピード」に偏っている。飲食店からの配達を主としてきたフードデリバリー事業者が、対象商材を食料品にまで拡大。また、これまで広範かつ高密度に出店していることで食料品のEC化のニーズ拡大を抑制してきたコンビニエンスストア各社も、ネット注文からの即時配達に力を入れている。

先行する北米・中国に目を向けるとWalmartや盒馬鮮生によるOMO型が主流ではあるものの、移動スーパー、居住地近隣のダークストアからの配送、ドローン配送も一部実用化され始めている。大きな資金調達に成功したスタートアップも存在したが、多くのサービスが損益分岐点を超えるスケールを実現する前に、厳しい競争にさらされ、淘汰が始まっている。需要に裏打ちされた確かな市場が立ち上がる前にレッドオーシャンの様相を呈している。

「スピード」競争が先行するなかで圧倒的強者が生まれていないのは、いまだ新たな市場に最適化された「UX」が実現されていないからである。

消費者起点で提供価値を磨き続ける

 
今後国内においても、「スピード」を武器にしたサービスはそれぞれが一定の需要は獲得していくであろう。同時にスケールし消費者に定着するより早く、北米の多くのデリバリーサービスの様に厳しい競争にさらされ淘汰されるところも多いと思われる。当該市場の可能性について悲観的な意見も多く聞かれるようになることも想像される。しかし、なお二桁兆円規模のポテンシャルがそこには存在する。

サービス提供者による検討は、常にサービス提供者視点に引き戻される力が働くことを強く自覚する必要がある。今訪れている大きな市場構造の変化に対応する為には、ユーザー視点という軸をぶらさないことが特に重要である。

多様化・変化する消費者を正しく捉え、消費者起点で提供価値を形作り、オペレーションモデルをEnd to Endで再設計する。さらにはそれを継続的に磨き続けられる企業がブレークスルーを果たすこととなるであろう。

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