山本和一
山本和一
プリンシパル / 東京オフィス

EV化で起こる、脱炭素よりも重要な変化

 
「カーボンニュートラル」や「脱炭素」は今やどの業界にとっても必須課題だ。パリ協定そしてCOP26を経て、地球温暖化を抑制する目標が定められ、世界が動き出した。

自動車業界でも、電動化、EV(BEV)化が進んでいる。主要OEMは、既存のガソリン車の置き換えとしてEV投入を加速させている。消費者や投資家からのカーボンニュートラルに向けた視線は日々強くなり、その動きに先んじて手を打つ流れが出来ている。

しかし、EV化がもたらす変化は、負の側面をゼロに近づける「脱炭素」だけではない。
筆者は、EV化によって、未来のモビリティの可能性が拡張すると考える。EVでは、これまでの自動車製造における制限が取り払われ、自動車の多様性が生み出されるのだ。

EV化が変える自動車作り

 
EV化は、多様なプレイヤーが多様な自動車を生み出す機会になっている。その理由は、自動車製造での自由度が上がることだ。

EVは従来のガソリン車と2つの点で特徴がある。1つは設計・製造が簡易になることである。つまり、ノウハウの塊りであるエンジンが無くなり、モーターや電池といったコンポーネントの組合せで自動車を作ることが出来る。2点目はパッケージングの自由度が高まることである。パワートレインのレイアウトに制約が少ないことから、自動車全体の部品のレイアウトや車室空間のつくりに自由度が上がる。

設計・製造の簡易化とパッケージングの自由度の高まりは、多様な形の自動車を生み出す。つまり、自動車の利用目的に応じた大きさや形、車室空間や荷台の作りが実現される。例えば2人乗りのマイクロEVや、ラストワンマイル物流に使いやすいバンなどである。また、既存自動車メーカーとは異なる新興EVメーカーの出現が進む。ユーザーのニーズに応える事業アイディアや車両アイディアを持った新興プレイヤーが、この自動車市場に参入する機会が増える。

EV化が生み出す「3つの多様性」

 
EV化によって、モビリティにおける様々な側面で多様化が進む。これはつまり、人々の「移動」や社会における自動車の在り方そのものが、変化していくということを意味する。具体的な変化を、ハードウェア、エンドユーザー、プレイヤーの3つの視点で考察したい。

1)ハードウェアの視点 : 四輪のサイズ・カバレッジの多様性

まず、多様なモビリティを「大きさ」の観点で捉えたい。これまでは、自動車(四輪車)の大きさに対して、より小さなサイズをバイクや自転車といった二輪車がカバーしていた。EVの出現は、従来の四輪ガソリン車を置き換えるだけでなく、小回りの利く手軽な大きさで、かつ四輪だからこその安定感を両立する、新たなモビリティを生み出している。

具体的には、主要自動車メーカーは、従来のガソリン車を代替する同じサイズのEVモデルを多数発表している。加えて、世界各地では既に小回りの利くマイクロEVが姿を見せており、都市部の狭い道路で、気軽にシェアリングで利用することが想定されている。例えば、ドイツのACM、ポーランドのTriggo、イスラエルのCity Transformerなどが挙げられる。

さらに、販売価格が50万円程度の超低価格EVも出現している。この価格帯であれば新興国の市場の裾野が広がり、かつガソリンスタンドといったインフラの整備なく、ガソリン車をスキップしてEV普及が進められる。例えば、GMとSAICの合弁会社である上汽通用五菱汽車(ウーリン)が超低価格マイクロEVを投入している。

2)エンドユーザーの観点 : 生活・移動シーンにおける選択肢の多様性

人々は生活の中で、多種多様な移動をする。その時々で最適な移動手段(モビリティ)を選択しているが、多様なEVや多様なプレイヤーが出現することで、その選択肢はさらに広がっていくだろう。

例えば、仕事で都市部をバス移動していた人は、マイクロEVシェアリングを活用するかもしれない。また、郊外の住宅地で自動車を2台持っていた家族は、うち1台を買い物用のマイクロEVに置き換え、買い物へは不安定な自転車ではなく安定感あるマイクロEVで出かけるかもしれない。

つまりは、エンドユーザーにとって、多様な移動手段が出現しているということだ。となると、これからは「自動車市場」という観点だけでは市場を見誤る。「移動総量」を市場の全体像として捉え、多様なモビリティ(自動車、電車、バス、eスクーター、自転車、徒歩、等)がその移動総量を取り合うエンドユーザー目線で言うとシーンに応じてモビリティを使い分ける、と捉えることが必要である。

具体的には、前述のマイクロEVのACMやCity Transformerなどが好例であろう。これまでになかった四輪サイズのモビリティで、都市部における人々の移動シーンの変革を実現し得るモビリティと言える。

また、EVを単なる移動手段と捉えず、多様な価値の1つと捉える動きもある。例えば、中国のNIOはライフスタイルブランドとして位置付け、EVの提供のみにとどまらず、セレクトショップやコワーキングスペースなどを提供している。また、車内でエンターテイメントを堪能できるSonyの「Vision S」も、単なる移動手段を超えた価値提供を目指していると言える。

3)プレイヤーの観点 : 自動車の企画・開発プレイヤーの多様性

EV化をきっかけに、多様なプレイヤーが自動車・モビリティ産業への参入を始めている。従来サプライヤーとして自動車メーカーに部品やシステムを供給していたプレイヤーが、EVないしはEVプラットフォームを供給する動き。自動車のノウハウを持たなかったスタートアップ企業が参入し、ゼロベースで自動車作りを行うと共に、新しい提供手法に取り組む動き。異業種出自のプレイヤーが参入し、自動車に移動以外の価値を加え、同時にサプライヤーと組むことで不足ノウハウを補完するといった動き。

これらの動きは自動車業界に構造変化をもたらし、既存の自動車メーカー・サプライヤーにとって、競い合う相手や協業する相手が変わるということを意味している。

具体的には、前述のTriggoやCity Transformerなどはスタートアップとして自動車産業へ参入してきたと言えるだろう。EV化が進んだからこそ新しいプレイヤーが新しいモビリティを世に提案することが出来ているのである。

また、Vision SのSONYも言うまでもなく自動車業界のプレイヤーではない。電機メーカーでありエンターテイメントを提供するプレイヤーと言えるだろう。しかし、自動車としてのノウハウ部分には大手サプライヤーのマグナとの協業が重要であった。異業種であるSONYからすればマグナと組むことで自動車という新しい領域への参入を果たし、サプライヤーであるマグナとしては従来の自動車メーカーと異なる新しいビジネス機会を得たことになる。

この変化の波を脅威と捉えるか、チャンスと捉えるか

 
元はと言えば脱炭素の観点で生み出されたEVであったが、その変化がもたらすものは、環境への配慮だけではなく、モビリティそのものや、エンドユーザーの生活・移動シーンにおける移動方法の変化をもたらし、自動車業界におけるビジネス構造の変化を引き起こす。つまり、EV化は単なるエンジン車の置き換えではないことが言えるだろう。

その時、自動車メーカーやサプライヤーなど、自動車に携わるビジネスを行う企業にとって、このような変化は脅威と捉えられる。しかし見方を変えると、新しい市場が生まれるとうことは、新しいビジネスを行う機会であると言える。エンドユーザーのどのような移動シーンに対して、どのようなモビリティを提供するのか。自動車メーカーからすると新しい移動を提案する機会になるだろう。サプライヤーからすると、新しいモビリティの企画に携わる可能性や、新たな協業先を発掘する機会になるだろう。

我々ローランド・ベルガーとしては、100年に一度と言われる変化のなか、時代に合ったモビリティビジネスを作り出すことに貢献していきたい。

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