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「フードテック」攻略の鍵はサステナビリティと価値観の多様化

染谷将人
染谷将人
シニアプロジェクトマネージャー / 東京オフィス

筆者はこれまで、異業種企業含む農業・食領域における新規事業戦略、食×サステナビリティ分野の調査・執筆等、食分野に係るコンサルティング・研究活動を行ってきた。他方、テクノロジー分野に関しては、食領域に加え、エンターテインメント分野における最新動向も研究している。本稿では、筆者のこれまでの経験を活かし、食分野で着目されるテクノロジー(フードテック)について論じてみたい。

巨大投資分野たるフードテック

 
テクノロジーの進化は日々目まぐるしく、私たちの生活にとって最も身近な産業の1つである「食」の分野も例外ではない。

「フード(=食)」と「テクノロジー」を掛け合わせたフードテック分野への投資が、近年活発化してきている。2012年に全世界で約2,300億円だった投資額は、2019年には2兆円を突破した。1)(注1: 出所「農林水産省フードテック研究会」)

フードテックの裾野は広い。報道で耳する機会の多い「培養肉」「植物肉」といった代替プロテインはもちろん、バリューチェーン(生産・流通から小売・外食・調理)の各段階で新たなテクノロジーが続々と誕生している。

フードテック躍進の背景には、食分野における2つのメガトレンドがドライバーとして作用している。
 1.サステナビリティ要請の高まり
 2.生活者の食に対する価値観の多様化

これらトレンドを捉えることで、フードテックを活用したビジネスチャンス・投資機会も見えてくる。本記事ではそれぞれのドライバーと、そのとらえ方を紹介していく。

サステナビリティ要請が加速するフードテック活用

 
昨今「SDGs」がニュースのみならずバラエティ番組でも取り上げられたり、小学校のカリキュラムでも組み込まれたりしているように、サステナビリティに対する注目度は日本でも日々高まっている。

食分野もサステナビリティの課題は非常に裾野が広い。「地球環境」の視点で見ると、例えば農業・畜産業の温室効果ガス排出に占める影響度は非常に大きいことが知られている。国際連合食糧農業機関(FAO)によると、世界の温室効果ガス排出量のうち、農業・畜産業は全産業の約12%を占めている(2017年)。中でも、牛を中心とする家畜の消化管内発酵(即ち「ゲップ」)によるメタンガスはその約4割にのぼるという。これは、欧米を中心に環境問題に対する感度の高い生活者の食肉離れの一因ともなっている。

論点は「生産」だけにとどまらない。世界では食品生産量の約3分の1が廃棄されており、「食品ロス」と呼ばれる大きな社会課題となっている。これには、発展途上国を中心としたコールドチェーンの未整備等による輸送過程でのロスと、加工後の流通・消費段階でのロスの双方を含んでおり、サプライチェーン横断で解くべき課題が残されている。

また、食品包装による環境負荷も課題である。コロナ禍においてオンラインフードデリバリーが益々普及しつつあるが、それに伴ってプラスチック容器やビニール袋といった環境負荷の高い包装資材の利用も増加している。フードデリバリーが今や食生活において欠かせないサービスである一方で、いかに環境負荷を軽減できるかはサステナビリティの側面で論点となっている。

このようなサステナビリティ要請の高まりに呼応する形で、様々なフードテックが誕生している。例えば、「食品ロス削減」に絞ってみても、様々なソリューションが検討されている。

例を挙げると、「必要以上につくらない」ようにするためのブロックチェーンによる取引情報のトレース、「廃棄食品を減らす」ためのセンサーや特殊包装技術を用いた鮮度管理や保存、「余剰食品を有効活用」するための3Dプリンタを用いた余剰食品の活用技術、といった具合だ。欧米の大手食品メーカーや食品小売、外食産業はこれらテクノロジーを積極的に取り込んでいる。

多様な価値観に応える「体験価値向上」ツールとしてのフードテック

 
生活者の価値観の多様化も、フードテックの出現・活用を後押ししている。

そもそも、食に関する生活者の価値観は時代の変化とともに多様化してきた。元々は「生きるための活動」という意味合いが強く、健康維持・増進が食の主目的であった。それが時代とともに「おいしさ」や「食の安全」に対する意識の高まり、直近では「ライフスタイルの表現」や「人との繋がりの手段」といった意味合いも重要となった。結果、一人ひとりの食に対する価値観・嗜好性はますます広がりを見せてきている。

それと呼応する形で、飲料・食品メーカー、食品小売、外食といった食品関連事業者は「パーソナライゼーション」を強化してきた。つまり、多様化する消費者に対応できるよう、一人ひとりにあった食を提案しようとする動きだ。様々なパーソナライゼーション関連サービスも誕生。欧米の大手企業のフードテックへの取り組みも目立っている。

興味深いのは、昨今では「食の楽しみの多様化」は物理的な食事・空間に留まらないという点だ。「エンターテインメントとしての食」はデジタル空間まで広がりを見せており、VR空間上の体験に即した「香り」が出るデバイスなど、デジタル空間に食体験をかけ合わせた事業も登場してきている。

フードテックの取り込みに向けて

 
以上で見てきたように、サステナビリティに関する要請への対応や、多様化する顧客へのパーソナライゼーションを目的とするフードテックは、今後も広がりを見せる可能性が高い。食産業(飲料・食品メーカー、食品小売、外食等)のみならず、消費財、ヘルスケア、化学・素材、テクノロジー等の周辺業界にとってもフードテックは間違いなく注視すべき分野の1つだ。

ただし、戦略なく「出玉に飛びつく」ことは避けたい。自社として目指す事業領域・ターゲット・提供価値を描いた上で、どこまで自前で・どこまで外部活用するのかといったオープン・クローズの見極めと共に、具体的な投資対象を検討されてはどうか。

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