RolandBerger 編集部
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/ 東京オフィス

ローランド・ベルガー、マイクロソフトなどを経て、現在はLINE株式会社でご活躍の砂金 信一郎さんと、ローランド・ベルガーの横山 浩実は、共に現在デジタル庁へ参画している。民間企業と行政を行き来しながら日本社会のDXを考える二人が、人に寄り添うデジタル社会に何が必要なのかを語る、スペシャル対談。

<PROFILE>
砂金 信一郎
LINE株式会社 執行役員 兼 AIカンパニー カンパニーCEO
東工大卒業後、日本オラクルにて新規事業開発、ローランド・ベルガーで戦略コンサルタント、リアルコムで製品マーケティング責任者を経験。その後クラウド黎明期からエバンジェリストとしてMicrosoft Azureの技術啓蒙やスタートアップ支援を積極的に推進した後、現職。2020年より、AIカンパニーCEOに就任。2019年度より政府CIO補佐官を兼任、現在はデジタル庁でプロジェクトマネージャを務める。

横山 浩実
ローランド・ベルガー 東京オフィス プリンシパル
東京大学大学院工学研究科機械工学専攻修了。米系ITコンサルティングファーム、米系総合系コンサルティングファーム、欧系ソフトウェア会社を経て現職。行政機関や公共機関向けサービス提供事業会社等に対し、デジタル事業戦略、風土・組織改革、標準化を通じたコスト・ビジネスモデル刷新、業務プロセス改革及びシステム導入などのプロジェクト経験を豊富に有する。現在、デジタル庁のプロジェクトマネージャとしても勤務しており、行政サービス等のデジタル化推進の役割も担っている。

パーソナライズとレコメンデーション

 

砂金:私がローランド・ベルガーに入ったのは30歳くらいで、顧客分析が一部タスクにあるプロジェクトなども担当したことがあります。今でいうデータ分析は、その頃にはあまり市民権がなく、高度なデータ分析を顧客分析に使っても、クライアントに響きませんでした。当時と比べると、今は戦略コンサルティングの立ち位置からしても、使える武器は広がっていますよね。

横山:近年は経営においても、顧客サービスにおいても「データからどんな示唆を得るか」という側面が非常に重要になってきているのかなと思います。

砂金:そうですね。データを無頓着に集めるのではなくて、目的のためにこのデータが必要であるという視点が大事ですよね。手段としてのデータという視点を、感度高く持つということが、いわゆるITじゃない業界でDXを進める際には重要です。

横山:マーケティングなどの分野では、いかにパーソナライズするかが最近のトレンドですよね。そのためには、ビッグデータを収集し、AIで分析したりすることも必要です。企業としては、パーソナライズするために、いつ、どのような情報をどうやって集めるか、というところが重要になってくるのかもしれませんね。

砂金:現状は、型にはまった「レコメンデーション」が主流です。年齢、性別、興味範囲など、いくつか事前に作っておいたパターンに合わせている。

一方で、「AIが全部作文もできます、画像も生成できます」となれば、コンテンツは完全にパーソナライズされたものになるはず。利用者視点で言えば、気持ち悪くないし、迷惑じゃないし、より便利である。

例えば、朝は忙しいから「朝早くからすみません」と声掛けから始まるなど、この人はこの場面でどういう思考パターンになっていて、そこにうまく差し込む情報は何が適切なのかを考えたいですよね。これは、今までのルールベースのCRMやマーケティングオートメーションでは、あまりできていなかった。今後は、AIでパーソナライズできる可能性があります。

システム側が受容する仕組みを

 

横山:日本ってまだまだ紙文化ですよね。この間も新聞を見ていたら、在宅オンラインワークになってどうですか?という問いに対して、ほとんどの業界の人たちは生産性が下がっていた。IT業界だけはそれが逆転していたんです。

せっかくいい武器があるのだから、使う側のマインドや使い方も変わっていかなければならない。人に優しいデジタル、誰もが使えるデジタルを目指したいですよね。

砂金:台湾のIT担当大臣オードリー・タンさんがよく言われている、「人間がやりたいようにやったものをシステム側が受容できるか」という論点があります。

よく紙とかFAXはけしからんみたいな話を聞きますが、紙とかFAXの方が心地いい人がいるんだったらそれをインターフェースに使えばいいと思うんですね。その結果がちゃんとデジタライゼーションされていればいい。オンラインがいい人もいれば、店舗や役所に行った方が安心するという人もいる。それが多様性というものだと思います。

横山:そうですね。デジタル庁で仕事をしていると、誰もがデジタルを直接使いこなせるように強制していくことは、正義ではないなと感じます。デジタル庁のミッションは「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を」ですが、お年寄りや地方在住者までいろんな方がいて、それぞれが心地よく暮らせるために、それを支える手段としてテクノロジーを使っていく必要があります。

砂金:テクノロジーを使って、システム側が柔軟性を持つことが必要ですよね。行政手続きにしても、検索にしても、一言一句間違えずにすべて書けなくても、システム側が受容できるようになれば良いと思います。

今まではこの様式に沿って何日までに間違いなく記入したものを提出することを人間側に強いていたんです。それって、実際はとても難しいですよね。今はAIの技術のひとつとして、曖昧検索的な技術がある。ルールや条件マッチングさせなくても、AIを使えば、「だいたいこんなこと言ってますよね」ということは分かるようになっているんです。

ヤマト運輸さんなどでも利用していただいている電話応対AIサービス「LINE AiCall」は、電話がまだ多くの人にとっては心地よい体験ということを前提に、段階的にですが、地域ごとのイントネーションや語尾の違いにまで対応していっています。

横山:すごいですよね。私も実際に「LINE AiCall」を導入しているレストランの電話予約を試してみましたが、自然対話でのコミュニケーションができて、驚きました。音声コミュニケーションは老若男女誰でもできるので、普段の暮らしの中で自然に使える点がとても魅力的だな、と感じています。

誰も正義だと言わなくても、引き算は大事

 
砂金:システムが人間の多様性を受容するためには、開発の方法が変わらなければいけません。事前に仕様を決めて、調達をして、納期までに決まったことを完成させる形式だと、時代の変化には全く追随できない。早い回転で開発を回すことはひとつの解決策で、今デジタル庁がやろうとしているのもそのパターンです。

今の時代、アプリ開発であれば、アプリがリリースされたら「納品完了!プロジェクト解散!」ってことは絶対ないんです。むしろ、そこがDAY1で、そこからどうやってお客様の声を速い間隔で取り入れて改善をできるのかが勝負なんですよね。

ここで、良い例として挙げたいのが、「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」です。

横山:話題になったアプリですね。インストールも簡単で、接種日やロットなどの情報を文字とQRコードの両方で表示するアプリになっていました。

新型コロナワクチン接種証明書アプリ |デジタル庁

砂金:そうです。実は、このアプリって今までの作り方とは若干違って、すごくシンプルで、機能が限定的。接種証明を見ることしかできない。それでいいんです。

引き算をしながらプロダクトを作ることを、アプリ開発・Web開発側の人間は意識しています。偉い人から、これが必要、あれが必要と言われたものをてんこ盛りにすると、使いづらいものになってしまう。アプリを使ってもらう側からすると、利用者にヘルプを読ませたら負けです。

それを回避するためには、そのアプリの利用者はどういう動機なのか、そこで何をやりたいのかを明確にしなければいけません。さらに、それを最低限クリアできるようにする機能だけを入れることが必要です。

横山:経営コンサルティングでも、業務を抜本的に見直したり、過去のしがらみを取っ払ってホワイトスペースを狙いにいったり、といったことを支援することも多いです。ここでも重視すべきなのは、クライアントに提供したい体験や市場のニーズです。

シンプルに、物足りないくらいからスタートすることが成功の鍵でもあり、また失敗してもそれを活かして次に進めるんですよね。でも、丁寧な人、心配性な人たちが、「あれも必要じゃないか」「これもやったほうがよい」と言い始める。そうすると、あっという間にやることが膨れ上がり、どんどん複雑になってしまう。

こうした事態を避けるためにも、いかに太い幹を見つけて、しっかりしたストーリ―を作り、クイックにスタートできるか。今の時代、そういったビジネスの勘所が強く求められていると感じています。

砂金:必要とされていること以外の要素を排除することは、簡単なようで非常に難しい作業です。「引き算」って誰もそれを正義だと言ってくれないんですよね。でも、ユーザーや顧客側に立って考えた時、一番大切なことだと思っています。

課題設定をする人が必要になる

 
横山:コンサルタントも役職が上になればなるほど、核心をついた言葉が言える人がビジネスをうまくリードできるように思います。「言葉」って、人間にとってとても重要だと思っています。ディスカッションのなかで生まれるものはとても多い。

状況をハイコンテキストで理解し、要点を鋭く突くためには、その前提として、様々な情報収集や理解も必要になりますよね。こういった作業を今後はAIに任せられることは増えてくるのでは、と期待しています。きっと、企業経営でも、数字を読んだり分析したりすることを、AIに任せられる時代がまもなくやってきますよね。

砂金:「AIをいれたら人の仕事がなくなる」という話もよく言われます。コスト削減としてAIを捉えている方も多い。

ただ、例えば、今まで一人の担当だと、1日に何件しかお客さんの対応できなかったところに、AIがバックサポートで対応量が100倍になって、100倍のお客さまに対応できるなんていうこともある。効率化の手段にとどまらず、トップラインを伸ばすことができるんです。

より多くのことができ、大きなことを実現するためにAIが役に立つんですよね。そう考えると、「仕事を奪う」といったようなゼロサムの話ではなく、幸せの幅を広げるものになってくる。

いま、AIにおけるベースの機械学習やディープラーニングは、「タスクを定義してそれを解く」という使われ方をしています。そうなると、タスクを適切に定義できる、つまり、課題を与えてそれを最適化するタイプの人が必要になるんです。同時に、他の事例や想像力でAIの利用方法を考え出す「課題設定」ができる人も必要です。そうでなければ、どれだけ技術や道具を研ぎすませても、AIの利活用は広がりません。

横山:近年は、課題定義のレイヤーが上がってきていると思います。経営コンサルタントでも、今までのような「いくらでM&Aするといくら儲かりますか?」という定量的な分析にとどまらず、「お客様やその先にいる顧客の真の幸せってなんですか?真の幸せに向けてどんな価値を提供すべきですか?」といった曖昧な課題を考える時代なんですよね。

効率合理化だけで、やる・やらないの判断ができる時代は終わりましたよね。今は80、90歳になっても、元気で自分らしく生きていける重要です。一人一人の生き様をうまくサポートできるような形で、デジタルを使っていくべきだと考えています。

砂金:そうですね。本当に誰かのためになるのか、これによって傷つく人はいないのかということに、今まで以上に真剣に向き合うべきでしょう。今後は、倫理面や精神的なケアができる人たちがチームに入った状態で、仕組みを作っていかなければと思います。

人に寄り添うテクノロジーの活用へ

 

砂金:また、技術をユーザー・社会が受容してくれるかどうかは大きな課題です。日本って、そういった受容性がすごくある国だと思うんですよね。

我々はドラえもんとアトムの国なので、「AIがもっと賢くなってくれたら自分たちがより便利になっていいじゃないか」という風に本来は許容できる文脈もある。それを多分まだ十分に活かしきれていないと思います。

横山:さっきの課題発見・課題定義の力とも繋がりますね。

砂金:「楽しい」「ワクワクする」といった要素を織り交ぜながら、AIやロボットがすぐ隣にいて、より便利になっていく。それが当たり前に受容されるような世の中を創るということを、同時にやらないといけない。

横山:昔だったら効率性・合理性という軸だけで評価していたのでシンプルだったと思います。今はそれでは戦えない。テクノロジーに対して、リスク管理しなければいけない部分はあるでしょうけれど、利用者目線を積極的に取り入れることで、人に寄り添いながら解決できる問題は多いと思います。

砂金:ローランド・ベルガーで仕事をしていたときを思い起こすと、戦略コンサルタントは、視点を自在に動かせる人たちなのだと思います。自分目線だけではない。クライアントの事業統括だったら、社長だったら、はたまた、コンペ企業のキーマンだったら、株主だったら、そして消費者だったら……と、それぞれのステークホルダーの目線で、目の前の課題を捉えることができます。

その場の状況をハイコンテキストに切り取りながら、誰にとっていいサービスなのかを考える。すべての人にとって、受容される状態を作り出す。そういう人たちが、これからの人に寄り添うデジタル社会を作っていくのだと思います。

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