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東南アジア伝統的小売に向けたB2Bプラットフォーム

下村健一
下村健一
プリンシパル(アジアジャパンデスク) / 東京オフィス

筆者は、東南アジアに実際に居住を置き、現地の消費者動向や消費財商習慣におけるコンサルティング・研究活動を行っている。現地の財閥グループの動向や、リープフロッグ的な業界変革をもたらすローカルスタートアップについても詳しい。本稿では、筆者が持つ知見、経験を活かし、現在、東南アジアで再燃している伝統的小売のデジタル化、並びにB2Bプラットフォーム化について論じてみたい。

日系消費財メーカーにとっての伝統的小売

 
東南アジアの小売市場において伝統的小売は重要な役割を持つチャネルである。インドネシアでは「ワルン(Warung)」、ベトナムでは「クアハン(Cua Hang)」と呼ばれ、零細商店ながら現地消費者に不可欠な存在だ。定量的に見てもベトナム、インドネシアでは小売市場全体の40%を占めるゆえ、日系消費財メーカーにとっても重要な小売チャネルとなる(図表1)。

だが、メーカー側にとって、これら伝統的小売は悩みの種でもある。伝統的小売は一店舗ずつの個人経営が基本であるため、近代的小売(コンビニやスーパーなど)のように本部機能が存在しない。そのため、一軒一軒まわって開拓しなければならず、専門の営業部隊が必要となってくる。相手はローカルの商店主なのでこちらもローカル人材で組成することとなり、組織としてのマネジメントは難しくなる。

加えて、膨大な数の店舗をカバーする体制を作ろうとすると固定費もかさむ。そこまでしても代金回収がうまくいかないといったトラブルも多い。もちろん、自前で営業部隊を持つのではなく、現地代理店やディストリビューターを使うことも多い。だが、有力な代理店は既に先行参入したメーカーに抑えられていることが一般的だ。また、代理店やディストリビューターを多層的に通すことで流通経路がブラックボックス化しやすい。消費者が遠い存在となり彼らの動向が見え辛くもなってしまう。

伝統的小売のプラットフォーム化

 
このように悩ましい存在の伝統的小売であるが、物理的に張り巡らされたネットワークが持つ可能性は非常に大きい。ここに目をつけて、およそ10年近く前から日系企業、ローカル財閥、欧米系企業がこぞって伝統的小売のプラットフォーム化を試みた。

プラットフォーム化とは単純化して言えば、メーカーから伝統的小売に至る多層的流通構造をB2Bオンラインプラットフォームに置き換える取り組みだ(図表2)。伝統的小売にはモバイルアプリを提供し、彼らはそこから必要な商品を必要なタイミングでメーカーに直接発注することができる。価格の透明性が担保されるとともに、デリバリーの状況もリアルタイムで追うことができる。メーカー側にとっても、どの伝統的小売で何が売れているかが見える化されるわけだ。

発想は実にわかりやすく、イノベーティブと言えるだろう。だが、結果として当時描かれたプラットフォームが実現されたとは言い難い。理想的とも思えた伝統的小売のプラットフォーム化は思ったように進まなかったのだ。そのひとつの要因は伝統的小売店主のモチベーションと言われている。伝統的小売のB2Bプラットフォーム構想の多くは、伝統的小売ビジネスの効率化、そしてその結果による収益増を謳い文句としていた。

各プラットフォーマーは、伝統的小売の店主に対して理路整然としたプレゼンでプラットフォームへの参画を促した。合理的に考えれば、伝統的小売はプラットフォームに組み込まれるべきだろう。だが、そう上手くは事が進まなかった。伝統的小売の店主は自身の小売ビジネスに熱心ではないのだ。親の代から受け継がれた店舗を惰性で行っているケースがほとんどである。長年のやり方が染みついており、事業の効率化や収益向上よりもこれまでの取引関係を変えることの億劫さが勝ってしまう。

プラットフォームに入ることはメーカーや代理店の馴染みの営業マンから鞍替えすることなのだ。そういった情緒的な面も絡んで、「モチベーションが沸かない」という極めて非合理的な背景が伝統的小売のプラットフォーム化を拒んだと言える。

B2Bプラットフォーム構想の再燃

 
こういった経緯を経てB2Bプラットフォーム構想は徐々に下火になってきた。しかし、コロナ禍によるECやオンラインデリバリーの進展もあり、東南アジアの小売・流通構造の地殻変化が今まさに起こっている。その中で、ここ最近、伝統的小売のB2Bプラットフォーム構想が再度の盛り上がりを見せているのだ。

この一、二年でも弊社に対する関連相談は実際増えている。一度は道半ばで頓挫したB2Bプラットフォームが東南アジアでいよいよ実現する機運すら感じられる。その中でも、旗主となり得るプレイヤーを3つ紹介したい。

ビンショップ(VinShop)
まずはベトナムの財閥ビングループが提供する伝統的小売向けのB2Bプラットフォームアプリ「ビンショップ」だ。2020年からサービスを開始しており、現在では10万店を超える商店が利用している。昨年には、伝統的小売に対し「手数料無料、財政証明不要、担保無し、40日間無利子」という思い切った融資プログラムを展開し、導入店数を一気に拡大させた(同内容の融資は期間限定で既に終了)。
また、同アプリをビングループが運営する他事業で使用できるポイントプログラムも検討中と聞く。伝統的小売の商店主は、ビンショップアプリでの発注によってポイントを貯めることができる。そのポイントはビングループが持つレストランやホテル、またはビンマート等でも使用できる。つまりは、伝統的小売の店主を、ビジネスオーナーというよりも一消費者として見て、プラットフォーム加入のモチベーションを与えるわけだ。見方を変えれば、ビングループのエコシステムに組み込もうという取り組みでもある。ベトナム最大の財閥グループゆえに為せる業だろう。

グダンガダ(Gudangada)
グダンガダはインドネシアのスタートアップで、全方位的なB2Bプラットフォームを提供するプレイヤーだ。受発注機能や在庫の最適化支援、そして融資等の金融支援も行っている。これだけを聞くと、かつて多くのプレイヤーが目指したB2Bプラットフォームと類似しており、それ以上でもそれ以下でもないように聞こえるかもしれない。実際にはその通りであり、グダンガダの差別化要因はプラットフォームそのものではなく営業部隊にあると聞く。
グダンガダは、かつてのプラットフォーマーが行ったようなスマートなプレゼンテーションを伝統的小売店主にするのではなく、もっと粘着性の高い営業活動をする。泥臭く何度も通いつめ、店主との関係性を作っていく。その中で、少しずつ信頼を得てプラットフォームを提案するのだ。加えて、地場の代理店とパートナリングを組んだり、特定のエージェントをリクルーティングしたりすることも多いようだ。伝統的小売店主の心理的抵抗をうまく排除することで頭角を表したプレイヤーだと言える。

ブカラパック(Bukalapak)
最後はECプラットフォームとしてインドネシアで良く知られているブカラパックだ。ブカラパックは、一般的にはB2C/C2CのECプラットフォームとしての印象が強い。だが、別の顔として伝統的小売のデジタル化支援の側面も持つ。その核となるのはミトラ・ブカラパック事業である。いわゆるB2Bプラットフォームとしてメーカーへの発注機能等を提供することに加え、フィンテック機能も兼ね揃えている。
具体的にはミトラ・ブカラパック加盟商店が銀行窓口的な役割を果たし、消費者が公共料金支払いや預金等を伝統的小売店舗できるようにしている。人口の半数以上が、銀行口座を持たないインドネシア消費者にとって、ミトラ・ブカラパック加盟店舗が銀行の役割を担うこととなった意義は大きい。インドネシア消費者の伝統的小売への訪店頻度を高め、「ついで買い」を促進できるからだ。更には、伝統的小売は金融手数料も徴取することができる。コロナ禍で経営状況が悪化したインドネシアの伝統的小売には、これら機能は非常に魅力的に映った。

以上の3つはほんの例示だが、水面下でも様々なプレイヤーがプラットフォーム熱を高めている。前述のとおり、コロナによる構造変化も進む中、伝統的小売のB2B領域において今度こそ大きなトランスフォーメーションが起こるのかもしれない。

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