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脱炭素化はモビリティ業界の事業そのものを変えていく。トレンドではない根本改革の最新動向

RolandBerger 編集部
RolandBerger 編集部
/ 東京オフィス

2015年のパリ協定で定められた、気候変動に対する国際的な枠組み。その実現に向け、COP26 ではより具体的な目標が設定された。ヨーロッパでは規制や認証制度が設けられ、グローバルスタンダードになることだろう。

注目は各業界から高まっているが、自動車産業などのモビリティ領域においても貢献が求められている。

その前提をもとに、2022年3月11日にウェビナーが開催された。テーマは「モビリティ領域における脱炭素を機会とした新規事業の創出」だ。登壇したローランド・ベルガーの山本和一、アスタミューゼの渡邉正樹氏により、この領域の最新動向や新規事業のポイントが語られた。

サプライヤーを巻き込んだCO2削減に、そびえる課題

 
ウェビナーは二部制で催され、前半はローランド・ベルガーの山本が自動車業界の最新動向を語った。

ヨーロッパの主要な自動車メーカーは、野心的なCO2削減目標を設定している。BMW、Mercedes-Benz、VOLVOは、自社によるCO2の直接排出を指す「Scope1」、他社から供給されたエネルギーの使用に伴うCO2の間接排出を指す「Scope2」について、50%以上を削減する。原材料の調達や輸送などサプライチェーン全体でのCO2排出を指す「Scope3」においても、50%近くの削減目標を掲げている。

山本はBMWの報告書を引き合いに、「財務指標と並び、CO2の排出量も記載されているのを見ても、売上や利益と同様に、CO2排出量を重要な経営指標の一つとして捉えていることを示しているのではないか」と述べる。

さらに、Scope3を含めた目標を達成するために、ヨーロッパの自動車メーカーではサプライヤーに対するCO2削減も求めている。直近の動向として、削減要求に満たない場合、「サプライヤーとの契約を打ち切る可能性もある」というほどだ。

ただ、Scope3を含めたCO2削減のためには、すべてのサプライヤーのCO2排出量を見える化する必要があるが、自動車メーカーからすれば現実的ではない。データの算出基準がなく、サプライヤー間の不公平にもつながる。フォーマットが統一されておらず、データを統合することの難しさも課題だ。

「他にも、中小企業はデジタル化が進んでいないことも多く、CO2排出量のデータ入力・共有に大幅なコストがかかる可能性がある。そのための計上コストを誰が負担するのかという問題も残る。サプライヤーからすれば貢献に応じたインセンティブがなければ、メリットを享受することもできない」と、山本は一筋縄ではいかない状況を説明した。

その課題に対し、ドイツでは自動車業界のデータ連携を目指す「Catena-X」というコンソーシアムを創設。IT企業や研究機関による技術サポートも巻き込み、アライアンスの強化を実施している。

「サプライチェーンはヨーロッパのみならず、グローバルで複雑に絡み合っています。日本企業にも影響が及び、今後は無視できない動きになる」と山本は述べた。

EV化がもたらす新興プレイヤーの登場

 
自動車業界における今後の動向を示す言葉として「CASE」がある。Connected、Autonomous、Shared、Electricの頭文字をとったもので、中でもカーボンニュートラルの動きに伴って「Electric」領域が大きく進展している。

ガソリン車と比べてEV車は車両製造の簡易化が進み、車両設計の自由度も高まっている。それによって、「2つの大きな変化が予測できる」と山本は見ている。

1つは、新たな車両の登場である。2人乗り用のマイクロEVのほか、車両の利用目的に合わせた形・荷台・車室空間などが多様な形態になる。もう1つは、新興EVメーカーの興隆。車両開発・製造の難易度が下がることで参入ハードルが下がり、異業種から参入するプレイヤーが増加する。「自動車は今後、物や人を移動させる機能に留まらない役割を果たすようになっていく」と山本は語った。

バリューチェーンを変える「5つのエコシステム」

 
自動車メーカーはこれまで、企画、開発、製造、販売、アフターサービスといった一連のバリューチェーンで収益化を図ってきた。しかし、EV化による車体の変化に伴い、バリューチェーンも新たにすることで利益の獲得が可能になるという。山本はそれらを「5つのエコシステム」として紹介する。

1.シャシーエコシステム:走る・曲がる・止まるなど、移動の基本機能を担うプレイヤーの参入。
2.エネルギーエコシステム:電池の製造、一次利用、二次利用、リサイクルなどを一連のビジネスチャンスとして捉える。
3.運転支援・自動運転のエコシステム:認知、判断、制御などコントロールを担うプレイヤーの参入。
4.車室空間エコシステム:インテリアだけでなく、住空間やホテルなど様々なプレイヤーが社内空間をプロデュースする。
5.顧客接点エコシステム:スマートフォンのように、自動車もユーザーと接点を持つ媒体になる。

こういった変化に伴い、サプライヤーもいち早く対応していくことが求められている。「EV化は徐々に進んでいます。手遅れにならないために、利益を確保できている今こそ、新しい事業を生み出していくことが必要」と山本は力説する。

業界構造の変化が起こっている間は、新たなビジネスを獲得するチャンスでもある。なぜなら、市場の勝負が決まっていないからだ。特に、これまで車両の部品を製造してきたサプライヤーであれば、その高い技術力を応用して、新たな分野でビジネスチャンスを捉えていくことも考えられるだろう。

モビリティ領域における新規事業の創出

 
イベント後半ではアスタミューゼの渡邉氏から「脱炭素を機会として捉えた新規事業の創出方法」について語られた。始めに、脱炭素領域を俯瞰的に捉える方法について共有した。

「脱炭素を実現する上で、我々は『エネルギー利用の効率化』『化石燃料の利用削減』『排出炭素の削減』という3つの視点で捉えている。これらをさらに分解して40の炭素削減に関する技術領域に整理。どの領域で企業が保有している技術を活用できる可能性があるのか探索することができる」と渡邉氏は説明する。

では、具体的にどのように新規事業のアイデアを創出していくのか。アスタミューゼでは、他社が自社の類似技術を特許申請した際に拒絶される「牽制」を起点に、事業アイデアを発散していくアプローチを取っている。

「例えば、ある自動車部品メーカーが排ガスに関連した技術特許を保有しているとする。業界の異なる飲料メーカーも類似した技術を申請したものの、自動車部品メーカーによる排ガスに関連した技術特許を理由に牽制されていることが判明した。この情報をもとに、自動車メーカーの技術を活用して、飲料メーカーへ事業展開できるのではないか、とシーズを探すことができる」と述べる。

さらに、発散した事業アイデアの絞り込み方についても渡邉氏は共有した。「まず、評価の判断軸を決めることが大事。その上で、評価の優先順位をつけながら、事業を評価していく必要があります。さらに、事業を実現化していく上で、どういった構成要素で成り立っているのか、必要な技術はなにかなどを可視化していきます」と渡邉氏。

アスタミューゼでは、様々なクライアントと共に新規事業の創出も支援している。「自社が保有するデータベースを活用し、各業界でどのようなプレイヤーが参入しているのか情報提供することも可能だ」と語り、ウェビナーは締めくくられた。

 

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