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トランスフォーメーションの羅針盤となるシナリオプランニングの重要性と活用手法

神谷 洋次郎
神谷 洋次郎
プリンシパル / 東京オフィス

経営者を支えるシナリオプラニング

 
ロシアがウクライナに侵攻し、国際情勢が大きく変化する中で、経済活動にも大きな影響が出た。欧州向けを中心としたサプライチェーンには大きな打撃となり、エネルギーなどの商品が高騰している。

経営者にとって、国際紛争やその動向を見通すのはかなり困難だ。しかし、経済のグローバリゼーションが不可逆に進む中、自社事業にとって影響を与える事象を、全世界的に幅広く見る姿勢は重要である。

昨今、多くの経営者にとって最も不確実性が高く、最も変化が求められることといえば、「脱炭素」やサーキュラーエコノミーの実現に向けた動きではないか。

主要国で2050年のカーボンニュートラルに向けて目標が設定され、日本も2030年度に「2013年度対比46%削減」と大胆に 掲げている。エネルギー事業の経営者はもちろん、製造業やサービス産業に加え、2015年より“Scope3”排出量が認定要件されたことで、全産業が対象となる。

将来的なカーボンニュートラルの実現は明確でも、それに至る道筋は決して明確ではない。既存事業の脱炭素化だけでなく、それによって事業構造転換を求められるケースもある。その最たるものは、エネルギーや化学業界ではないか。

エネルギー業界では天然ガスなどの脱炭素化だけでなく、主力燃料・原料そのものを転換することも視野に入る。ただ、脱炭素化が起こす変化の規模は大きく、その変化すべてに単独の企業がついていくのは困難である。

たとえば、エネルギー源として水素を活用をすることの促進が見込まれたとして、単独の企業が製造、輸送、販売までを一貫して行うのは事業リスクが大きく、容易ではない。

では、どういった観点が経営判断のサポートとなるのか。欧州の再生可能エネルギーの開発動向、中国やインドのエネルギーミックス、水素の製造技術など、その動向が大きなインパクトを与える変数をウォッチし続ける必要があるだろう。

しかし、先に述べたように現代は不確実性が高くなり、それらの変数を予測することが困難な状況となっている。そうであっても環境の変化に柔軟に対応するためには、2つの対策が欠かせないと考える。一つは、的確な変数の設定。そして、その設定に基づく複数のシナリオの用意だ。特に2点目において、企業の舵取りにおける悩みを少しでも和らげるためにも「シナリオプランニング」を活用していく必要があるだろう。

当てる”ためのシナリオではなく、“準備する”ためのシナリオ

 
シナリオプランニングで肝心なのは、“当てる”シナリオを用意するのではなく、不確実性の幅を把握して、経営者として“準備する”シナリオを複数設定することだ。

不確実性が高い状況に置いて、特定のシナリオを正確に当てることは困難であり、複数のシナリオを想定しながら、時間の進行に伴い変数が確定することを見据ながら、柔軟に対応を進めていくことが現実的である。

そして、主要な変数が変わる状況に応じてシナリオを定期的に書き直し、社内での適切なコミュニケーションを通じて、全社の方向性を共有していくことが重要となってくる。更に、設定したシナリオを以下3点のアプローチで全社経営に活用することが重要ではないか。

1:全社戦略と各事業部の戦略との結節点にする    

用意するシナリオは事業の将来を考える上での地図として全社で共有し、またシナリオに基づいて主要な戦略を効果的に連動させる必要がある 。

次世代のポートフォリオを描き、その実現に向けたM&Aや提携戦略を検討する。また、競争力の源泉となる技術戦略を策定し、競争力を強化する組織・人材戦略を構築する。それら一連の戦略を柔軟に組み替えていく際にも、シナリオに連動させることが重要だ。全社にまたがるシナリオは個別の事業においても活用できる。製品価格の変動や技術の開発動向など 、シナリオにおける変数の一部を「各事業でも注視する変数」に設定するとよいだろう。

事業ごとでの中長期の戦略を策定する際の拠り所となり、適切な投資判断の材料にもなる。シナリオは、全社戦略と各事業部門の個別戦略を連動させる結節点として活用できる。

2:全社方針として共有する

既存事業が大きく変化すれば、携わる社員が進むべき方向性に悩むことも多くなるだろう。その際に全社シナリオを共有しておけば、「シナリオが想定する変化の幅」と「それに対応する行動」を ディスカッションすることで認識を合わせやすくなる。 

中期事業計画を策定するプロセスなどを通じたオフィシャルなコミュニケーションも有用だが、機会はそれだけではない。経営者が大きな方向性とその不確実性を都度共有することで、社員の不安を取り除き、モチベーション高く仕事に向き合ってもらいやすくなる。

またシナリオは、人材競争が激しくなる中で、優秀な社外人材を獲得する上でも、社としての方向性を理解してもらうために有効であろう。

3:外部ステークホルダーの巻き込み

会社の舵取りを大きく変化させる際には、社内のみならず社外との丁寧なコミュニケーションが重要である。投資家にも適切に説明しなくてはならない。

この点、欧州企業が参考になる。脱炭素やサーキュラーエコノミー関連事業でリードする欧州では、投資家に対してうまくアピールし、企業価値を適切に株価へ反映することに成功している事業者も多い。

加えて、脱炭素やサーキュラーエコノミーなどの社会課題を起点にした事業展開では、既存の事業拠点や設備からの撤退・転換など、地元住民にも大きな影響を与えるものも少なくない。その際、どういったステークホルダーへ適切に情報を伝え、適切な理解を得ていくのかを考えるうえでも、説明の根拠となるシナリオを準備することが大切である。

シナリオには経営企画部門の一層の活躍が必須

 
困難が伴うトランスフォーメーションにおいては、経営のみならず社内で納得度の高いシナリオを策定し、活用することが鍵になる。経営者は常に様々な外的環境の変化に目を光らせ、社内への啓蒙を継続するためにも社内インテリジェンス機能としての経営企画部門の一層の活躍が必須となる。世界がより繋がり、相互に影響を及ぼし、不確実性が高まる中では、独自の調査や分析機能の強化に加え、様々な社外リソースの使いこなしも必要となるであろう。シナリオプラニングを通じ、経営企画部門が経営者の参謀として、改めて重要な役割を担う必要があるのだ。

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