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バングラデシュ消費市場のポテンシャル

下村健一
下村健一
プリンシパル(アジアジャパンデスク) / 東京オフィス

筆者は東南アジアを拠点に各国・各地でのコンサルティング活動に従事しているが、その守備範囲は東南アジアに留まらず中国、香港、台湾といった東アジア、及びインド等の南アジアに拡がる。今回は、今まさに各国企業からの注目を集めているバングラデシュについて論じたい。

バングラデシュの急浮上

 
バングラデシュに対する相談がここ最近増えている。人口1.6億人を擁するポテンシャルは従前から魅力的な市場であり、多くの日系企業が消費市場としてのバングラデシュへの本格参入を検討してきた。その温度感がミャンマーの政変を契機に一気に上がったと感じる。

「ラストフロンティア」と呼ばれていたミャンマーには、2010年代初期の民主化以降、日系企業のみならず多くの外資系企業による投資が進んだ。その潮流が2021年のクーデターによって一変されたことはまだ記憶に新しい。ミャンマーから撤退する外資系企業も多く、新規投資については5年~10年スパンで凍結するとの見方も一般的だ。

その中、ミャンマーに代わる新たな投資先を模索する動きが活発化している。そこでより強いスポットライトを浴びることになったのがバングラデシュというわけだ。

消費支出市場としての魅力

 
バングラデシュが生み出す消費支出市場は2022年時点で3,000億USDに近い規模である(図表1)。

この規模は現在のマレーシアよりも大きくタイに迫る。2030年に向けて年平均13%で拡大すると見られており、2030年時点でバングラデシュはインドネシアを除く全ての東南アジアの国々を凌ぐ規模に至る。現在(2022年)のインドネシアを上回る巨大消費市場になっているというわけだ。

加えて、一人あたりの消費支出の成長も著しい。かつては「世界最貧国」とまで言われていたが、それももはや昔の話である。もちろん、まだまだ急速な経済成長の最中ではあるものの、2022年時点で一人あたり消費支出は既にベトナムに近しい水準にある。今後も継続的な水準向上が期待され、2030年にはベトナムを超え、その数値はむしろ現在(2022年)のタイに近づく水準だ。

消費支出市場、一人あたりの消費支出、このベーシックな二つの指標を見るだけでもバングラデシュがいかに魅力的な消費市場になっていくかがわかるだろう。

リープフロッグの可能性

 
バングラデシュに注目すべき理由は他にも存在する。バングラデシュは、伝統的小売、いわゆるパパママショップの小売チャネルに占める割合が8割に迫る国だ(図表2)。

この値は、東南アジアのどの国よりも高い。コンビニ、ショッピングモール等の近代的小売の比率が小さく、リテール市場の成熟度が極めて低い国ということである。

一方で、バングラデシュのEコマース化率は意外と高い。伝統的小売の比率が同程度のミャンマー、カンボジア、ラオスのEコマース化率が1~2%であるのに対して、バングラデシュは既に5~6%程度。ベトナムに近い水準にある。

バングラデシュでは伝統的小売がまだ多く残る一方で、Eコマースの伸びが大きい。これがバングラデシュ小売市場のひとつの特徴であり、典型的なリープフロッグの兆候とも言える。

一般的なリテール成熟化の歩みは、伝統的小売からコンビニといった近代的小売へのシフトだ。しかし、バングラデシュの消費者は、近代的小売よりもEコマースシフトの傾向が他国よりも強い。弊社が行った消費者調査でも、その特性はバングラデシュ消費者に顕著に見られた。

現在のバングラデシュEコマースは、東南アジアのLAZADA、Shopeeのようなメガプラットフォームが存在せず、小規模サイトが乱立するステージにある。Eコマース化は、一般的に巨大なECプラットフォームが多額のプロモーション投資を行って、消費者を啓蒙していくことで進展する。

バングラデシュにはECプラットフォーム側にその動きはまだ見られない。それにも関わらず、バングラデシュ消費者は各ECサイトに能動的にアクセスしてEC購買習慣を作りだしている。このバングラデシュ消費者の気質が今後更に大きなリープフロッグを生み出す土壌となることは間違いない。

もうひとつ、バングラデシュが秘めるリープフロッグの可能性がある。それは伝統的小売のDXだ。ミャンマーやカンボジアの伝統的小売比率は今後下がっていくと見られている一方、バングラデシュの伝統的小売比率は大きくは変わらない。代わりに想定されている変化が、伝統的小売がデジタル化していくことだ。

東南アジアでも、B2Bオンラインプラットフォームという形態で、BukalapakやVin Shop、GudangAda等が伝統的小売に至る中間流通をオンラインで簡略化し、店舗自体のデジタルによるバージョンアップを試みている。非常に革新的なコンセプトだが、「言うは易し…」であり、覇権的規模を持つプラットフォーマーは東南アジアで未だ表れていない。

しかし、バングラデシュが持つ圧倒的に高い伝統的小売比率と、前述の国民性も考慮すると、東南アジアが成し遂げられていないB2Bオンラインプラットフォームの確立が起こり得るのではないだろうか。既にShopUP等の関連スタートアップも登場している。

B2Bオンラインプラットフォームがバングラデシュで確立されれば、日系含めた外資メーカーにとってもアクセスできる小売市場が一気に拡大する。先に述べた圧倒的な規模を誇るバングラデシュの消費市場の大部分を抑えられる可能性が出てくるわけだ。この変革のポイントに乗り遅れることなく、日系企業がその先陣を切っていくことに期待したい。

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