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日本らしいAI化とは。AIが変える消費と小売の未来。

RolandBerger 編集部
RolandBerger 編集部
/ 東京オフィス

近年、人々の購買行動や消費者ニーズは、より一層多様化してきている。また、サプライチェーン全体の環境負荷の低減や、サステナビリティへのコミットメントも不可欠になってきている。

そのような中、「なぜこの店でこの商品が売れたのか」「いつ誰にどのような商品が売れているのか」といった、見えない消費者の「意識」を分析し理解することは、消費財メーカーや小売業界にとってイノベーションのキーファクターとなっている。

一方、画像認識・機械学習・深層学習などの掛け合わせによって、人々の行動から意識を読み解き、様々な予測やレコメンドを可能にするテクノロジーも発展しつつある。その技術を有する企業が、「ヒト脳の認識モデルのAI化」を目指す、AIスタートアップ・MinD in a Deviceだ。同社は、AI研究の中でも著名な東工大の松尾豊准教授からも出資されている有望テクノロジー企業であり、ローランド・ベルガーによるプロフェッショナル・ネットワーク「価値共創ネットワーク」に参画している。

本記事では、MinD in a Device代表の加藤真平さんと、消費財メーカーや小売業界でのDX推進に専門性を持つローランド・ベルガー パートナーの松本渉、価値共創ネットワークの責任者である中野大亮の三者が鼎談。人々の消費はAIによってどう変わるのか、消費財・小売業界においてどのようなイノベーションを実現できるのか、可能性を模索する。

<PROFILE>
加藤 真平
MinD in a Device CEO
国立群馬工業高等専門学校卒業後、筑波大学第3学群工学システム学類に進学し流体力学・数値計算などの研究を行う。修士(工学)。同大大学院を卒業後、仏系メーカーに研究職として入社しグローバルプロジェクトのプロジェクトマネジメントを担当。モビリティ系スタートアップに参画し日本国内の統括や、東南アジアの現地法人立ち上げ及びローカルパートナーとの提携推進とMaaS事業化に従事。その後、ヘルスケア系スタートアップに入社し、社長室・室長としてBtoC事業・BtoB事業の収益事業の立ち上げおよび大手企業との資本業務提携を執行。医療/ヘルスケア領域の大学発ベンチャーの経営戦略・資本提携を支援を経て、共同創業者として参画。

松本 渉
ローランド・ベルガー パートナー
東京大学文学部卒。総合商社を経て2004年から2008年までローランド・ベルガーに在籍。その後、再生系コンサルティングファームを経て2021年よりローランド・ベルガーに再参画。公認会計士。日本ディープラーニング協会認定ジェネラリスト。食品、飲料、家電、化粧品、アパレル、レストラン、ホテル、小売りなどの消費者向け産業を中心に活動。事業会社やファンドの投資先におけるPMI(買収・合併後の統合)や業績改善、事業再生、組織構造改革等のプロジェクトを多数経験。特に暫定経営者として株主・従業員・取引先等の利害を調整し具体的な結果に結びつける実行型支援の実績が豊富。 近年はDX導入に向けた全社組織改革にも注力している。

中野 大亮
ローランド・ベルガー パートナー
東京大学法学部卒業。米系戦略コンサルティングファームを経て現職。デジタル、メディア・コンテンツ、産業材等を中心に幅広いクライアントに対し、事業戦略、成長戦略、M&A/PMI等のプロジェクト経験を豊富に有する。昨今では、未来構想・長期ビジョン、新規事業量産、PoC、スタートアップ連携といったテーマに数多く取り組んでおり、採用責任者、価値共創ネットワーク責任者を務める。

AI万能論と失望論を超えて:不規則で少ないデータからでも未来が予測できる

 
松本:私は普段、食品や家電、百貨店、コンビニエンスストアなど、いわゆる消費財・小売と呼ばれる業界を担当しています。近年は、店舗とECだけでなく、無人店舗、ネットスーパー、メタバース内でのショッピングなど、消費行動の種類の幅もどんどん広がってきています。今後、より魅力的な商品を、より快適なサービスで届けるために、各社様々なテクノロジーを使って消費の未来を考えています。

そんな中、様々なデータを組み合わせて人々の「意識」を可視化するMinD in a Deviceさんの技術は、消費財・小売業界においてイノベーションを起こし得るのではないかと思い、今日ぜひ詳しくお話を伺いながら、議論を深めたいと思っています。

加藤:ありがとうございます。特に店頭での消費行動に関しては、なかなかデータが取りづらく、アナログで不確定要素が多い業界ですよね。我々の技術では、少ないデータでも様々な予測ができるので、消費財・小売業界とは相性が良いのではないかと感じています。

ヒトの脳が物事をどのように認識をしているのかを紐解き、脳の仕組みを模す「生成モデル」(生成モデルの一種である“GAN”ではなく、その源流の思想)をベースに、独自の社内AI開発基盤を構築しています。ヒトの健康が食事・睡眠・運動から成り立っていると考えると、AIもまさに同じです。特に食事は「学習データ」に相当し、量的にも質的にも良いものを与えなければ強いAIには育ちません。ここ数年、なぜAIの「PoC開発疲れ」が話題にのぼるかと言えば、とりわけ良質な学習データのコストが実は極めて高く、PoC開発後に暗礁に乗り上げていることが挙げられます。AI万能論やAI失望論が渦巻くAI業界ですが、さらには個人情報保護の流れも加速していることから、莫大な資本を投下して「実データ」を集め学習データ化していく物量作戦が果たして投資の方向として正しいのかといった視点を持つマネジメントも増えています。

一方でヒトは過去をもとにした様々な前提知識をベースに、限られた情報を手掛かりに「想像」をすることでその場の状況を高度に判断しています。このヒトの仕組みに着目をしてAIの開発基盤化をしてきたのが当社で、「PoC後に学習データ不足によりAI開発が進まない」という顧客企業からの声に応えてきました。

中野:これまでのAIは、学習させるべき対象やテーマに変化が起こると、新たなデータを再学習させる必要がありました。簡単に膨大なデータを集められるような領域では問題ないですが、そうなると相性が良くない領域も少なくありませんでした。

(左から、中野、加藤さん、松本)

加藤:その通りです。機械学習・深層学習を中心とするAIモデルはオープンソース化されており容易に入手可能ですから、大量のデータを持つプラットフォーマー等にとっては非常に有用です。しかし、データの個別性が高い領域——たとえば、工業製品を扱う製造業やメーカーの場合は、外観検査(編注:部品や製品の品質を外観から評価する方法)で数十万の部品に対して、多様な欠陥を検査しなければなりません。また小売業では、四半期ごとに商品の形状・パッケージデザインが変更になり、さらには店舗の商品設置の環境も千差万別ですから、実際にカメラに「実際に映る」商品は実は天文学的なパターンが存在します。その天文学的なパターンに対して学習データとAI開発が重たいとビジネスは回りませんから、様々な状況変化に対し「AIの学び直し」をなくしていくことが私たちのテーマです。

他にも、自律ロボット・ドローンをはじめ、ADAS(先進運転支援システム)と呼ばれる自動運転の領域でも自動車会社に技術を活用いただいています。生え変わり続ける世界の都市において、どの国でも安全に使っていただける自動車を懸命に開発してくれている自動車会社ですが、やはり大量の学習データが不可欠。通常は、高価なセンサが大量に積まれた車両を街中で走らせ、自動運転マップ化するのが一般的です。一方で、そのような物量作戦を、今からしかも政治的に緊張感のある国も含めて果たしてやるかという議論があることや、プライバシー・個人情報保護の観点から別の手段を模索する企業も出始めています。昨今はどんどん難しくなっている。ここでも、生成モデルを核とした当社の開発基盤を活用すれば、撮影された膨大な映像がなくても運転精度が向上させられるのです。

中野:当社との協業のひとつとして、いま現在、工業製品の外観検査プロジェクトを進めています。たとえば、工業製品の外観における傷・曲げ、あるいは物理的には発生し得るもの現時点では1件も発生していない異常などをどのようにカバーしていくか。また、工業製品が置かれている環境も天気や気温・湿度などの気象条件や、土や砂利、コンクリートといった素材など、多様な環境が周囲にあり刻一刻と変化をしている。それらの影響を極力受けないAIでなければ上手く機能しません。

加藤:そうですね。特にそういった環境では、熟練の検査員の方々が暗黙知をお持ちだったりしますよね。どのようなときに、なぜ、どんな異常が起きるのか。あるいはどこからどこまでを異常とすべきなのか。体系化はされてなくても肌感覚として存在する情報を「前提情報」として捉えAIに吸収させることができることも当社の特徴なので、「ヒトの判断基準に近い」判断をするAIを育てていくことも可能です。製造や小売をはじめ、多くの日本企業の中にはそういった暗黙知がありますから、実は「物量作戦」でデジタル化・AI化を進めるのではなく、暗黙知を取り込んだ質重視の日本らしいアプローチもあるのではないかと。

小売・消費財業界のトランスフォーメーション

 


松本:MinD in a Deviceの技術があれば、過去数年間で根付いてしまった「AIはデータがなければ役立たない」という先入観に囚われず、新たな提案が可能になります。これは、消費財や小売業界でも同様です。

消費財メーカーや小売業界では、具体的な戦略設計に結びつけられるほどのデータを集めるのは難しいという課題がありました。「店舗で撮影している防犯カメラの映像データが大量にある」と思って解析をしても、やはりデータ不足が原因で有益なインサイトが得られないのです。

たとえば、店舗の映像データを使うには、「カップル」「4人家族の親子連れ」といった顧客属性まで認識できなければ戦略までは落ちません。ですが、「どういう人間の組み合わせが親子なのか」は、人間は類推できてもAIには中々難しい。

さらには、天気によって客足が変わったり、店舗のレイアウトも頻繁に変わったりする。商品単体を見ても、パッケージや梱包が変わってしまうと同じ商品と認識できない。こうした複雑な変化を踏まえ、その都度学習を重ね、分析できる状態にするのには膨大な労力とデータが必要になってしまうのです。

加藤:技術はイシューと噛み合って価値を生みますから、「どんな課題を解決すべきか」という経営課題や現場への高い解像度がなければ、徒労に終わってしまいかねない。当社としても単発の取り組みに終わり、ロングタームな関係構築に至らない。ローランド・ベルガーは解くべき課題から向き合われているかと思いますが、今はどのような課題感やテーマが注視されているのでしょうか。

松本:ひとつ大きなものとしてはDXの潮流があります。消費財メーカーや小売業界でもDX支援依頼は増加しつづけている。しかも、単なるツールの導入などではなく、文字通りの事業や企業全体のトランスフォーメーションに取り組む機運が高まっているのです。

背景には、消費財メーカーと小売業界の「業界融合」、あるいは競合化とも呼べる現象があります。いま、小売業界では自社ブランドの商品開発を始める事例が増えています。これまでは店舗運営が事業の主軸だった企業も、製造から販売までを担うようになってきた。これは、店舗のデジタル化によって顧客のデータが一定集まるようになり、顧客のニーズを活かした商品開発ができるようになったためです。

他方で、消費財メーカー側もDX推進の名の下にD2Cの展開をはじめ、消費者と接点を持つようになりました。消費者のニーズを直接吸い上げて商品開発やブランド訴求をし、小売店を通さなくても販売ができる。言い換えるなら、消費財メーカーが小売りまで一貫して担うようになってきたイメージです。DXという大きな流れの中で、両者は競合関係になりつつあるのです。

加藤:企業の中には、本来たくさんの貴重なデータが眠っています。お話しいただいた変化もデータによるところが大きいと思いますが、それ以外にも内側の人たちは可能性に気づいていないものは少なくありません。中には、当社のAI開発基盤上で活用すれば、会社を急成長させうるデータが存在する可能性もあるはずです。

松本:あとは、オンラインとオフラインの境界もよりシームレスに融合してきています。例えば、ナイキ公式のメタバース空間「NIKELAND」には、すでに700万人ほどの訪問者が来ているそうです。将来的には、メタバース空間でトレンド化した商品が、突然店舗で爆発的に売れる、などといった購買行動も出てくるかもしれません。また、メタバース空間で消費者の声を吸い上げ、それらを開発に活かすということも起こってくる。

そうなると、ブランド戦略やマーケティング、経営そのものとも密接に結びついてきます。そういった相互性も、データとAIによって、より高度化していけるのではないかと考えています。

経営戦略と技術の 「コンカレント」な関係

 
加藤:日進月歩のAIをはじめとする技術と、中長期的な経営戦略は不可分な関係になってきていると感じます。その分、導入の難易度も飛躍的に上がっており、本質的に価値提供していく上では、数々の重たい課題とも向き合わなければいけません。

松本:そうですね、先述したようなトランスフォーメーションに取り組むためには、経営戦略レイヤーから技術レイヤー、どちらか片方だけではなく双方を一気通貫で構想する必要があります。

加藤:どんな技術を導入するかと、中長期的な経営戦略を同時に考える必要がある、ということですね。

松本:この時ポイントになるのは、経営戦略を固めてから実装するトップダウンの動きでも、デジタル人材を採用してからボトムアップに戦略を考えるのでも全体がうまくいかないこと。すなわち、「コンカレント(concurrent=同時並行)」な動きが必要になるのです。

中野:10年ほど前、企画・設計など上流工程と、製造などの下流工程を同時並行で実施する“コンカレントエンジニアリング”という言葉が注目を集めましたよね。ある意味、ここに回帰する、ないしは本質的に求められてきたといえるかも知れません。

私たちに求められることは、MinD in a Deviceのような技術を持つ企業と、経営戦略を結びつけて、「どんなトランスフォーメーションができるのか?」を顧客へコンカレントに問いかけていくことでしょう。

その時には、経営と技術それぞれの言語を駆使して同時多発的に議論するスキルが必要になります。経営者と技術者それぞれの言葉を翻訳しながら、複雑で難しい戦略を構築していかなければなりません。

松本:個別の技術課題を解決するだけではなく、単に戦略だけでもない。双方を往復しながら実装していくことで、トランスフォーメーションが実現する。その意味では、VCNという仕組みもコンカレントを実現する重要なピースなのかもしれません。

中野:VCNが特徴的なのは、対等なパートナーであることです。我々のクライアントにとっては、あくまでAIのような技術も手段のひとつとして捉えるべきです。一方VCNのパートナー企業にとっても、ローランド・ベルガーは協業先のひとつであるべき。

お互い、特定の対象にロックインされると、変化に適応できなくなってしまいますから。大切なのは、ひとつの関係に固定化しない「揺らぎ」なんですよね。

松本:人口減少や国内消費市場の縮小によって、日本企業は短期的な売り上げを追求する傾向が強まっていると感じています。ですが、中長期的なビジョンと短期視点を往復しつつ、トランフォーメーションを視野に入れた活動に取り組む重要性も高まっている。その積み重ねが、持続的な成長を生み出す鍵になると思っています。

加藤:海外のやり方を真似するだけではなく、自信をもって自分たちのアイデンティティを見つめ直すことも大切にしています。その上で、自社が持っているアセット・データを活用することによって、日本企業ならではのイノベーションを起こすことができたら、こんな痛快なことはありません。

松本:日本からもグローバルに通用する勝ち筋は生み出せます。データから自社の強みを再発見し、それをAIの手助けによって最大化し、経営戦略に繋げていくといったお手伝いは、今後ぜひ実現していきたいです。

 

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