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「レッドガス」時代の羅針盤【第一章】「色分け」されたエネルギーがもたらす事業機会

渡邉諒也
渡邉諒也
プリンシパル / 東京オフィス

エネルギーの「色分け」の必要性

 
これまでエネルギーはコモディティ商品の典型例と言えるものだった。例えば、電気は誰がどこで使うものも同じであり、電気に「色」はない。しかし、全世界的な脱炭素化の必要性から、エネルギーはその作られ方に注目が集まっている。その結果として、エネルギーは、ブルー、グリーン、グレーなど、製造プロセスにおけるCO2の排出量の違いによって、新たに区分がされるようになった。色のないエネルギーに「色付け」がされることになったのである。

需要家側のエネルギーに対するニーズにも変化が生まれている。従来は、需要家が購入するエネルギー商品には大きな違いはなく、ニーズも価格中心に単一的であった。ところが、グローバルでの脱炭素化の動きは、需要家側の意識の変化を引き起こし、脱炭素への感度の高い業界では、グリーンエネルギーの活用を積極的に志向している。他方で、当然ながら、安価な従来型エネルギーを引き続き求める需要家も一定数存在する。このように、エネルギーは、その作られ方で区分されつつあり、また需要側のニーズも多様化している。

エネルギーの「色分け」の必要性をもたらす要因は、この「グリーン」性の観点だけではない。ウクライナ問題以降、欧州はロシア産LNGからの脱却を進めている。産出国に、地域紛争・人道問題等の観点での懸念が存在する「レッド」資源の輸入・利用を回避する動き起こっているのだ。従来、エネルギーは安定調達が重要視されてきたが、足許では、自国のエネルギーの安全保障に対するリスクを負ってでも、「レッド」性資源を避けようとする動きが出てきている。

トレーサビリティの必要性とその手法

 
上記の観点から、今後、エネルギーのトレーサビリティを担保することが、ますます重要となってくる。グリーン性の視点では、供給側は、エネルギーがどのような過程を経て製造されたものなのか、需要家向けに明らかにする必要が出てくる。また、レッド性の視点では、どの地域・主体によって産出された資源なのかが、これまで以上に注目を集めることになる。エネルギーの「色」が、サプライチェーンを通じて継続的に見える化されている必要性が高まるのだ。

グリーン性の観点からは、エネルギーのトレーサビリティの手法はバーチャルなものから、物理的なものまで存在する。バーチャルな手法としては、証書型やブロックチェーンを活用した取引が該当する。これらは、グリーン電力証書制度のように、需要家が、電気自体とは切り離されたグリーン電力価値を証書等の形で保有できる仕組みや、ブロックチェーン技術を用いて、グリーンエネルギーの供給者とそれを購入したい需要家をマッチングし、その取引成立を証明するものである。

他方、より物理的なものとしては、再エネ発電設備等とその需要家を直接送電線などで結ぶ方法が存在する。この手法では再エネ由来の電力等は、化石由来のものと混じることがないので、再エネ由来の証明が容易に可能となる。このグリッドで直接接続されたエネルギーは、トレーサビリティとしては最も明確なため、自社の使用エネルギーのグリーン性を強くアピールしたい企業にとっては、最も有効な手段となる可能性が考えられる。

一方、レッド性の観点からは、調達するエネルギーが何らかのレッド資源問題を抱えていない点を明確にすることが重要になってくる。エネルギーがどの程度グリーンであるかは当然重要だが、それに加えて、エネルギー調達先の信頼性・コンプライアンス等の確認が重要になる。エネルギーの供給者は伝統的なエネルギー大手に限らず、中小・新興プレイヤーを含めて多様化し、隣接する産業から廃棄される副産CO2やH2を活用した燃料生成が進展するなど、エネルギーないしカーボンリサイクルの基幹物質としての原料も多様化が見込まれる。エネルギー調達が複雑化しているが故、エネルギーの非レッド性担保が重要性を増してきている。

エネルギーの届け方の多様化

 
再エネの供給方法についても、需要家のニーズを踏まえて、需要家毎に分離されていく可能性が考えられる。グリーンエネルギーを確実に調達していることをアピールしたい需要家向けには、前述の通り、直接のグリッド接続は有用だ。他方で、直接のグリッドで個別に発電所と需要家を接続していくことは、あまり効率的ではない。そのような状況に鑑みると、例えば、再エネ由来の電力のみが接続できる長距離再エネ専用送電線を、複数の企業が共同出資して整備する手法が考えられる。旧一般電気事業者が各地域内で整備する送電網とは異なり、むしろ各地域を縦断的に結ぶ幹線型の送電線を構築するイメージだ。この再エネ専用の幹線を用いて、再エネの生産地から都市圏の需要地までを長距離で輸送しつつ、そこからのラストワンマイルについても、既存のグリッドとは独立した形でエネルギーを輸送する。例えば、水素転換し、グリーン水素の形で個別輸送する方法などが考えられる。

他方で、そこまでのグリーン性の証明を必要としない需要家向けには、引き続き既存のグリッドを活用したバーチャルなグリーンエネルギーの供給が継続すると考えられる。ミニマムのグリーン性が必要な需要家にとっては、前述のような再エネ専用送電線等での輸送は、コスト高になる可能性があるためだ。

「色分け」がもたらす新たな事業機会

 
これらの「色分け」されたエネルギーに関する動向を踏まえると、今後、いくつかの事業機会が生まれると考えらえる。1つ目としては、既存のエネルギー企業が、顧客別により最適なエネルギーを届ける進化版の小売ビジネスである。エネルギー企業は法人/個人の需要家をより細かくセグメンテーションし、新たなマーケティング施策を打つ必要がある。過去、小売面での工夫余地が限定的であったエネルギー会社にとっては、チャレンジングな事業と言えよう。

2つ目は、エネルギーの需要側と供給側それぞれの多様化を踏まえ、両者のマッチングを行うプラットフォーム事業である。証書型やブロックチェーン型のように、グリーンエネルギー自体をバーチャルに需給マッチングさせるものだけではなく、グリーンエネルギーの輸送手段やそのキャパシティを含めて、需給をリアルにコーディネートさせていくものだ。蓄電キャパシティのマッチングを含む事業についても想定される。

3つ目は、上記とも関連するが、グリーンエネルギーの実輸送・物流ビジネスである。前述のマッチングプラットフォームによって、需要家と供給者がマッチングされたとしても、実際にエネルギーがグリーン性を担保されながら、需要家の手元にまで届けられて初めて意味がある。再エネ専用線等のインフラを管理・運用したり、需要家までのラストワンマイル輸送をに担うようなプレイヤーが今後必要になる。

4つ目は、エネルギー調達先のレッド性回避を含めた目利きビジネスだ。前述の通り、エネルギー供給者の多様化や、エネルギーないしカーボンリサイクルの基幹物質としての原料の多様化により、エネルギー調達が複雑化している。そのような中、調達先のレッド性を確認することは、より難易度が高まる。レッド性回避の観点も含めて、どんなエネルギーをどこから調達すべきかの判断を支援するビジネスの必要性が、今後高まるのではないか。

以上の通り、脱炭素化の推進や地域紛争・人道問題等の発生に伴い、エネルギーの色分けの必要性の高まりや、ニーズの分化、需給の在り方の多様化等が、今後進展する可能性がある。その結果として、エネルギーのサプライチェーンにおいては、グリーン性の推進及びレッド性回避の視点から、新しい事業機会が生まれうる。エネルギーを取り巻く事業環境は、これまでのコモディティ型ビジネスから、より多様な事業機会が存在する世界へと、大きく変貌を遂げるのではなかろうか。

図:「色分け」されたエネルギーに伴う事業機会

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