マネジメント

サステナビリティ戦略を成功させるための4ステップ

RolandBerger                            編集部

RolandBerger 編集部

Article by Geoff Poulton
Collages by Klawe Rzeczy
Photos by Getty Images
Illustrations by Stefan Mosebach

(Think:Act Magazineより翻訳・編集)

 

サステナビリティ戦略は、競争力や利益への不安材料として捉えられがちだったが、いまや経営における必須項目となっている。NY大学Tensie Whelan氏は、「企業がサステナビリティ経営をうまく運営すれば、自社の業務効率・イノベーション・回復力・コミットメント・ブランドロイヤリティを高めることができる」と話す。

持続可能性のパズルを解くためには、企業は4つの重要な要素を理解する必要がある。自社のフットプリントを理解し、そこから学んだことを知識として活用することで事業を適応させ、長期的な変化を計画し、従業員・顧客・投資家に対しては明確かつ誠実に伝える。今回の記事では、この4ステップを解説する。
 

1.Measure your footprint  フットプリントを測定する

 
どのような変化が必要かを理解するためには、企業が自然環境に与える影響を把握する必要がある。これまでは、多くの企業が自社の事業活動に焦点を当ててきた。しかし、それだけでは不十分だ。この問題に適切に対処するためには、バリューチェーン全体の排出量を見て、より全体像を把握し、排出量の多い分野に取り組む必要がある。

機械学習・IoT・スマートメーターの普及により、企業はエネルギー需要・二酸化炭素排出量・水や材料の使用量などを正確に、そしてより簡単に測定することができるようになった。これらの情報をもとに、企業は科学的根拠に基づいた改善目標を設定することができる。

気候変動の観点で言えば、2018年のパリ協定で定められた、産業革命前と比べて地球温暖化を1.5°C、最大でも2.0°Cに抑えるという目標がある。しかし、なぜ1.5なのだろうか。SBTiによると、1.5℃の目標を達成することで、企業はより安全なサプライチェーンを構築し、猛暑・水不足・食糧不足にさらされることのない、より健全で安全な労働力を確保することができ、また、水の供給の劇的な変化によるリスクを大幅に軽減できる安定した事業運営が可能になる、と言及されている。

1.5℃の目標を達成するためには、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する必要がある。現在の科学的コンセンサスでは、今世紀半ばまでに社会は気候変動に左右されない、つまり「ネット・ゼロ・エミッション」にしなければならないとされている。

2020年には、Amazon社からUnilever社を含め、多くの企業がカーボンニュートラルへの目標について発表した。Microsoft社やIKEA社は、2030年までに、自社が排出する温室効果ガスの量よりも、削減する量を多くすることで、カーボンニュートラルな企業になることを目指している。

2.Adapt your operations オペレーションの調整

 
どのような企業でも、エネルギー・水・原材料をより効率的に使うことで、すぐに改善することができる。エネルギー源を再生可能エネルギーに切り替えたり、ガソリン車から電気自動車への切り替えを検討したり、可能な限りのリサイクルを行ったりと、ほとんどのステップは明白だろう。

しかし、ハードルとなりそうなのがコスト。Tensie Whelan氏は、企業に対し、初期費用だけでなく、ライフサイクル全体のコストを考慮するよう勧める。

「再生可能エネルギーの価格は常に下がっている。持続可能性がより大きな優先事項となり、環境配慮への要求が高まるにつれ、機器のコストは下がる。遠くない将来、持続不可能なパフォーマンスにはより強いペナルティが課せられるようになるかもしれない」

ある意味では、自分の店や工場、オフィスのインフラを変えることは簡単だ。しかし、企業は地球環境の変化がサプライチェーンに与える影響も考慮しなければならない。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、気候変動は、暴風雨・洪水・熱波・干ばつなどの異常気象を頻発させるだけでなく、海面上昇・水不足・農業生産性の低下・土地の劣化を早めるとしている。インド北部ではすでに気温50℃を越え、屋外での活動ができない日も増えている。また、肥沃な土壌は、年間240億トンの割合で失われている。

サプライチェーンの混乱は、ビジネスに大きな損害を与える。2011年にタイで発生した大洪水は、世界中の何千もの企業に影響を与え、150億ドルから200億ドルの保険金の支払が発生。国連によると、気候変動による職場の混乱に起因する米国の生産性低下は、2030年までに2兆ドルを超える可能性があると言及されている。

これらのリスクを軽減するためには、企業がバランスを取る必要がある。サプライヤーとの長期的な協力関係があれば、お互いに情報を共有し、在庫の増強やインフラの強化などの調整を積極的に行うことが可能になる。
 

3.Plan for the long Term  長期的な計画をたてる

 
持続可能性への道は、企業によっては長く困難なものかもしれない。GHG プロトコル・スコープ1と2の排出量を削減するのは非常に簡単だが、スコープ3の排出量が多いということは、大量のGHGを排出するサプライヤーや顧客に大きく依存したビジネスモデルであることを意味する。

今後の10年間の取り組み方が、企業や産業全体の長期的な存続を左右するといっても過言ではない。BP社が2020年9月に発表した「エネルギーの未来に関する年次報告書では、石油需要が2019年にピークを迎えた可能性があると示唆。同社はビジネスを転換し、風力発電に11億ドルを投資することを発表した。

技術革新による改善もありえるが、一方でテクノロジー産業による汚染も大きい。レアアースとは、風力発電や太陽電池、バッテリーなどに欠かせないが、その採取過程で土壌や水が汚染される。また、将来的にその需要が供給を上回る見通しだ。クラウドコンピューティングを支えるデータセンターは、現在、米国の全電力使用量の約2%を占めている。また、世界の電子・電気機器の廃棄物量は現在、年間約5,000万トンにのぼり、これは現時点までに製造されたすべての民間旅客機よりも多い量でありながら、正式なリサイクル率はわずか20%だ。

これらの問題を解決するには、企業と政府がより密接に協力する必要がある。時計の針が進む中、次の20年は、エネルギーシステムの脱炭素化、自然を破壊せずに増加する人口を養う方法の模索、廃棄物を減らすための循環型経済への移行など、これまでに目撃されたことのないような急激な変化が、経済メカニズムにもたらされる可能性がある。

4.Communicate transparently 透明性の高いコミュニケーション

 
顧客、従業員、投資家、規制当局などの間で、サステナビリティに関する問題意識は常に高まっている。企業が持続可能性を誇張して主張する「グリーンウォッシュ(環境配慮をしているように装いごまかすこと)」は依然として問題ではありながら、それを見破るのは、はるかに容易になってきている。

環境問題に関しては、正直で透明性のあるコミュニケーションをとる必要がある。エコノミスト誌は最近、世界の上場企業5,000社以上の排出量開示情報を分析。アメリカでは、S&P500の67%の企業が地球の大気中に放出する物質を開示しており、2015年の53%から増加した。Euro Stoxx 600の企業では、40%から79%へとほぼ倍増し、日本では、Nikkei 225の13%から46%へと増加した。

しかし、これは一部分に過ぎない。恐怖や不確実性は、ビジネスにおける効果的なコミュニケーションを妨げています。それでも、社内外のすべてのステークホルダーに現状を知ってもらうことが重要です。Tensie Whelan氏は、こうしたコミュニケーションのうち、消費者への情報提供も含まれるべきだと説明する。

「多くの企業が、サステナビリティに関するメッセージを消費者に伝えていない。作られたものの本当のコストには、ほとんど注意が払われていない」。

消費財大手のUnilever社では、自社の7万種類の製品のひとつひとつに、製造や輸送時に発生するGHG排出量の詳細を表示する計画を発表した。そういった動きは今後広がっていくかも知れない。

 

サステナビリティに関する企業のコミュニケーション方法は、環境ガバナンスに関する企業の幅広い戦略と密接に関連している。

ビジネスリーダーは、サステナビリティ戦略がすべてのステークホルダーの期待に応えているかどうかを知るためにも、早い段階でコミュニケーションチームを巻き込むべきだろう。。

サステイナブルな企業は、特に若い人たちの間で魅力的な職場になりつつある。2019年に米国で行われたある調査によると、ミレニアル世代の約40%が、企業のサステナビリティに関する活動で仕事を選んだと答えた。

もちろん、投資家も注目している。世界の40社以上の投資会社を対象とした2019年の調査では、資産運用会社にとって「ほぼ共通して最重要課題」であることがわかった。持続可能で長期的な価値創造を重視していることを投資家に示せば、結果的にビジネスのコストを下げることができる。

短期的なマーケティングのためではなく、長期的な企業の成長のために、気候変動に対する行動とそれに伴うコミュニケーションは必要なのだ。


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