マネジメント

2050年、サステナビリティは世界をどう変えるか

RolandBerger                            編集部

RolandBerger 編集部

By Hannah Zühlke, Matthias Ermer and Christian Böhler

(英語版より翻訳・編集)

世界は今、サステナビリティ革命の瀬戸際にある

 
現在、世界中でサステナビリティに注目が集まっている。どのような道を歩むかは、現代の人々だけでなく、後の世代にも影響が及ぶ。未来がどのような世界になるか、サステナビリティ革命の基盤を作る上で重要な役割を担っているのは、一般市民、政府、そして“企業”である。

何もしないでいることは明らかにリスクであるが、そんなリスクがあるところにチャンスがある。企業戦略にサステナビリティの視点を取り入れなければ、風評被害、サプライチェーンの問題、環境への悪影響などのリスクを負うことになるが、これらの課題に真正面から取り組めば、後に大きな成果が得られる可能性がある。

企業戦略の上位に位置する“サステナビリティ”

 
ここ数十年、サステナビリティは企業戦略の上位に位置づけられるようになった。少なくとも欧州のグリーンディール以降、多くの企業はコンプライアンスや倫理基準を積極的に導入し始めている。

これは企業側で生じた意識変化によって始まった動きではない。むしろ、世間一般の人々がサステナビリティに関する議論をリードする役割を果たし、それによる社会的関心の高まりから、CO2排出量、クローズドループリサイクル、男女間格差などさまざまな点で規制が強化されてきた。

また、多くのZ世代の人々は、自分たちがサステナビリティに対して積極的に活動する世代であることを世間に証明してきた。この世代の新入社員が入社すると、企業はサステナビリティへの取り組みを強化しなければならない。いまや多くの労働者は、雇用主が社会的使命や目的意識を持ち、外の世界と積極的に関わっていくことをますます期待するようになってきている。

そして、優秀な人材を獲得したいと願う企業は、この方針に従わなければならない。一般市民や従業員からのプレッシャーに加え、企業は政府による規制強化に応じなければならない。規制は、サステナビリティの実現に向け、必要な条件を整える上で重要な役割を果たしている。

ここで、地域的な違いが見られる。欧州では、製品のライフサイクル、CO2排出量、循環型経済、指導的地位に占める女性の割合、といった点に焦点が当てられている一方、米国や中国では、規制の枠組みはまだそれほど厳しくない。サステナビリティへの関心の高まりは、金融市場にも影響を与えており、投資家は企業のサステナビリティに関するパフォーマンスに大きな期待を寄せている。

このように企業は、一般社会、政府、投資家など多方面からプレッシャーを与えられている。そのため、企業の責任を測定するための標準的なフレームワークというものが強く求められるようになった。

近年普及しているフレームワークの一つにESGがある。ESGとは、サステナビリティの中核となる3つの側面である、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の頭文字をとったものである。ESGフレームワークは、企業のサステナビリティの全ての側面をカバーするものであり、社内の目標設定や舵取りに使えるものであり、カスタマイズも可能であるため特定の業界や企業に合わせて調整できということもあり、他のアプローチよりも一部ではすでに普及している。

シナリオで考える

 
多くの専門家が口にする質問は、「サステナビリティ革命は十分な速さで起こるのか」ということである。未来を正確に予測しようとするのは無謀だが、シナリオというツールがある。これを使うことで、将来の見通しを立てる際に無限に広がる未来の可能性の複雑さを軽減させることができる。

私たちは4つのシナリオ、つまり2050年の世界の姿を描いてみた。30年という時間は、それぞれのシナリオが大きく変化するのに十分な長さであり、政府や企業の計画期間を反映している。

この4つのシナリオは、サステナビリティに関する未来のパノラマを形成している。私たちはこれを“Sustainarama”と呼んでいる。熟考と議論を促すために、4つのシナリオを意図的に挑戦的なものにした。

“計画された新世界(Planned new world)”のシナリオでは、2050年にはサステナビリティが法律で義務づけられており、気候の大変動は回避され、地球温暖化はわずか1.5℃に抑えられ、世界の貧困は減少している。私たちは、サステナビリティに関して、ある種の“国家共産主義”とも言えるような生活を送っており、日々の暮らしのあらゆる場面で法律が適用されている。

一方、“みんなが自分のために(Everyone for themselves)”のシナリオでは、世界の大部分が砂漠化によって住めなくなり、10億人以上の気候難民が移動し、海は乱獲され、食料は不足している。企業は寄付を継続しているが、それは“パンとサーカス”のためだけである。

そして、企業にとって最も望ましいシナリオは、“サステナビリティのための競争(Race for sustainability)”のシナリオである。消費者に後押しされて、企業は社会の責任あるプレーヤーとして行動し、経済のグリーンな変革を推進する革新的なソリューションを競い合う。

リスクとモチベーション

 
企業は変革の旅に乗り出す必要がある。そのためには、サステナビリティ戦略のアクションフィールドごとに“モチベーション”を定義する必要がある。特定の分野で先駆者になるべきか、それとも競合他社との差を縮めることが先決なのか。世間の目がどんどん厳しくなっていく中で、それぞれのモチベーションの定義は、現実的に果たせる内容でなくてはならない。

また、「グリーンウォッシュ(環境配慮をしているように装いごまかすこと)」の要素を一切含まず、言葉に見合った行動をとらなければならない。私たちは、企業戦略にサステナビリティの視点を取り入れない企業は、火遊びをしているようなものだと考えている。サプライチェーンのリスク、風評被害のリスク、環境リスクなどといったサステナビリティの問題に対して消極的な姿勢をとることは、企業にとっても大きなリスクとなる。

一方、サステナビリティは、経済的なチャンスも生み出す。例えば、サステナビリティを指針とすることで、エネルギー効率の向上・リサイクルの増加・ビジネスモデルの見直しなどが可能となり、新たな市場の可能性を見出すことができるかもしれない。

サステナビリティの問題に真正面から取り組むことで、大きな成果が得られる可能性がある。私たちが今、企業の皆さまにお伝えしたいことは、「大胆になって、サステナビリティに対して強い姿勢で臨んでください。行動すべき時は今であり、“より良い普通”を形成するチャンスはかつてないほど大きくなっています。」ということである。


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