モビリティを取り巻く5つのエコシステム
「CASE」は100年に1度と言われるモビリティの大変革を表す象徴的なキーワードとして色々なところで表現されている。背景にはテクノロジーの進化があることは言うまでもない。結果、ヒトの移動やモノの運搬における手段に過ぎなかったモビリティの機能・役割が、大きく広がってきている。
機能・役割の広がりとともに、ビジネスとしてモビリティを捉えた時にも変化が生じてきている。従来は企画・開発・製造・販売・アフターサービスを一連のバリューチェーンとして捉え、自動車OEMを頂点にサプライヤーや販売店が役割分担を行うという、モビリティを主語にした戦い方であった。
しかし、ADASの進化、電池ビジネス(BaaS)、住宅との電力のやり取り、キッチンや仕事場になる車室空間作り等、これまでのモビリティにない機能が追加される中、モビリティを主語でない、異なる切り口をエコシステムとして捉えてビジネスを行うプレイヤーが登場している。そして、モビリティはそれらのエコシステムの一部として捉えられようとしている。このような考え方を2021年のスタディで紹介した。
既に動き出した3つの戦い方
5つのエコシステムを切り口としたビジネスは既に動きだしている。従来は自動車OEMがモビリティのブランドを持ち、サプライヤーから部品を調達しながら企画・開発を主導し、顧客接点作りも主導していた。しかし、新たなプレイヤーがモビリティの企画・開発を行い、水平分業をしながらモビリティを世に送り出すビジネスが始まっている。
このような新しいビジネスの動きにおいて、業界プレイヤーの戦い方は3パターンある。
① エンドユーザー価値を起点にモビリティを企画するプレイヤー
② 標準・汎用シャシーを供給しスケールを狙うプレイヤー
③ モビリティを適用先の1つとして特定モジュールで尖るプレイヤー
① エンドユーザー価値を起点にモビリティを企画するプレイヤー
エンドユーザーとの接点を持つプレイヤーが、新たな接点の持ち方としてモビリティ領域に進出し、モビリティの企画・開発を主導する動きである。
具体例としてSONYが分かり易いだろう。SONYは多様なコンテンツを持ち、多様なデバイスを通じてエンドユーザーに届けてきた。届ける際のデバイスはゲーム機でもaiboでもよく、その新しいデバイスの1つとしてモビリティを選んだ。よって、モビリティをワンショットで販売して終わりではなく、エンドユーザーに対して、モビリティを通じて多様なコンテンツを届け、アップデートしていくことでマネタイズする。一方、走る・曲がる・止まるを担うシャシーなどSONYとしてケーパビリティを持たない部分は、自動車サプライヤーのMagnaと協業するなど、水平分業を活用したモビリティ作りを行っている。
ベトナムのVinfastでも同じことが言える。Vinfastは2022年のCESでEV5モデルを発表した。ブランドはVinfastであるが、シャシーはMagnaとの協業であり、ADASはZFと協業するなど、自らが持たないケーパビリティはうまく自動車サプライヤーと分担しながら、Vinfastというモビリティを作り上げている。
それは、Fiskerでも同様であり、メディアに登場するApple Carも同じように捉えれば間違いないだろう。
② 標準・汎用シャシーを供給しスケールを狙うプレイヤー
視点を変え、パターン①で登場したMagnaを主語にビジネスを語ってみよう。Magnaは自動車メガサプライヤーであり、ボディー、パワートレイン、エクステリア、シート、エレクトロニクスなどをカバーしている。さらに、自動車OEMから完成車製造の受託も受けている。つまりモビリティについて多岐に渡るケーパビリティを保有している。
EV化が進んでも、走る・曲がる・止まるという要素はモビリティに必須、かつノウハウが必要な部分であり、新興プレイヤーには難しい。パターン①で示したように新しいプレイヤーがモビリティの企画・開発を始める中、Magnaは走る・曲がる・止まるを担うシャシーモジュールを作り、新興プレイヤーに供給するビジネスを行う。
同時に投資回収するためにスケールを確保することも必要である。これらを踏まえると、多様なモビリティに活用可能な汎用的・標準的なシャシーモジュールを作り、多様なプレイヤーに供給するビジネスは理にかなっていると言える。
このような動きは、RivianやArrivalが取組むようにスケートボード・プラットフォームという形で実現されるだろう。
③ モビリティを適用先の1つとして特定モジュールで尖るプレイヤー
特定モジュールやコンポーネントを専門の武器として、モビリティを適用先の1つとして供給するプレイヤーも存在する。例えば電池。CATLやLGなどが知られたプレイヤーであろう。彼らは自らモビリティの企画・開発に乗り出すことはない。
しかし、電池を主語に捉えると、電池の製造、一次利用、二次利用、リサイクル、と言ったエコシステムで捉えることが可能であり、加えてモビリティは電池の提供先の一つに過ぎない。この電池という世界でビジネスを広げ、その成長領域の1つがモビリティと見ている。同様のことは、ADASの進化で重要性が高まったセンサーや半導体でも言うことができる。
自動車メーカー・サプライヤーにとっての機会
このようなビジネス構造の変化が顕在化する中、自動車メーカー・サプライヤーにどのようなビジネスチャンスがあるのか。
モビリティが担う機能・役割が大きくなることは既に述べた。これは、既存の自動車メーカーにとってもビジネスを広げる機会とも言える(言い方を変えると、新たなプレイヤーから浸食される脅威でもある)。この時、目指す姿に対して、どのようなノウハウやアセットを「手の内化」(=内製)し、何を「協業する」「借りてくる」(=外部活用)べきなのか、峻別が必要である。もちろん、自動車メーカーだからこそ既に持っているノウハウやアセットは最大限活かしつつも、全てを自前で賄うことは難しくなっている。だからこそ、内製と外部活用のうまい使い分けが求められている。
サプライヤーにとっても、新たなビジネス機会と言える。これまでは従来からの自動車メーカーとビジネスを行っていた。それが、新たなプレイヤーが登場することで、ビジネスの相手が増えることを意味する。しかも、彼らは必ずしも走る・曲がる・止まるに詳しいわけではない。であれば、サプライヤーだからこそのバリューを提供する場面も増えるであろう。
100年に1度の大変革の時代。それは新しいビジネスチャンスが生まれることを意味する。その変化をどう捉え、どうチャンスを獲得するのか、考えていくことが求められている。