モビリティ・自動車

グローバルマネーを引き込み勃興し始めたインドのEVエコシステム

伊澤                            範彦

伊澤 範彦

プロジェクトマネージャー/東京オフィス

近年、世界中の金融・事業投資家が、インドの自動車関連スタートアップ、それも特に、EV関連スタートアップへの投資を強化している。1千万ドル以上を調達したスタートアップの数は40社に上り、その投資額は合計54億ドルに達する。金額もさることながら、投資家の顔触れが凄まじい。Sequoia、Accel、DST Global、Tiger Global、KKR、TPG、Warburg Pincus、Temasek、SoftBank、Tencent、Alibaba、Xiaomi、そしてGoogleと、名だたる投資家達がインドの次世代モビリティ産業にカネを投じている。

なぜか。1つは、インドの次世代モビリティ産業の成長性・スケールポテンシャル。インドの人口は、2023年に中国を抜いて世界最多になる。人口増加とモータリゼーションの進展に伴い、インドの四輪車市場は、2026年にも日本を抜いて世界第3位に浮上する見込みだ。それを見据え、自動車のEC・マーケットプレイスが台頭して来ている。

自動車はディーラーではなく、デジタルスペースで販売する時代だ。タクシー配車アプリのOlaは、電動スクーターを開発する子会社Ola Electricを設立している。更には、先日、電動SUVの開発に進出し、「世界最大級の単一フルEVハブ」を立ち上げる構想を発表した。CASEの新たなビジネスモデルは、インドでも着実に芽吹き始めている。

もう1つは、気候変動対策。インドの大気汚染は深刻だ。世界で「最も空気が悪い」上位100都市に、インドから63都市がランクインしている。年平均PM2.5濃度は、WHO基準値の実に20倍にも達する。また、GHG(温室効果ガス)排出量の多さも、インド国内のみならず、グローバルに悪影響を与える、深刻な社会課題だ。

インドのGDP当りのGHG排出量は、中国の1.4倍。経済成長に環境対応が追い付いていない。国際社会・インド政府共に、無策だった訳ではない。発電の脱石炭・再生可能エネルギー化を推進して来た。加えて、EV導入を推進して来てもいる。しかし、インドの新車登録台数に占めるEVの比率は、僅か0.2%。ほぼないに等しい。

その中でも、インドを代表する自動車メーカーであるTata Motorsは、2021年以降、EV販売を積極的に推進している。依然、新車販売台数に占める比率は高くはないが、2022年6月の販売実績は、前年同月比で+433%と、急成長中だ。インド最大の財閥であるTata Groupの総合力を駆使して、開発から販売、充電サービス提供まで、EV普及に必要なエコシステムを単独で提供している点が、成功要因の一つだと言える。

Tata Motorsが牽引するインドのEV産業だが、EV販売だけの市場として見ると、先行する欧州・米国・中国と比べ、現状の規模の小ささや、普及に向けたハードル・進展の遅さ等がネックとなり、明らかに見劣りする。

一方で、エコシステム全体を俯瞰して見ると、再生可能エネルギー発電導入、充電サービス網整備、eMaaS展開、バッテリーリサイクル等、事業機会は多く、社会課題解決の観点で見ても、やるべきことは多い。その分、カネもかかるし、EV普及を加速させるためには、エコシステムのサブシステムを同時進行で構築する必要がある。インドのEV関連スタートアップへの資金流入動向を見ると、全体としてはその方向に進んでいる。

果たして、日本企業はこの潮流をどのように商機として取り込めるか。 
詳細はこちらのSTUDYをご覧ください。
STUDY英語版はこちらをご覧ください。


SHARE THIS PAGE

CATEGORY TOP