消費財・小売

食における「利益を生み出す」サステナビリティ

ローランドベルガー

長谷川 千紘

サステナビリティは既に株式市場における重要な評価指標の一つとなっており、多くの企業が取り組むトピックである。(図1)

一方、特に日本企業においては、サステナビリティへの対応は株主や政府に求められる最低ラインをクリアするための「コスト」であり、利益貢献にはつながらないものとして捉えられてきたように感じられる。

本稿では、日本の食品メーカー・食品小売企業は今、そして今後どのようにサステナビリティをとらえるべきなのかを考えたい。

利益に直結する重要課題となったサステナビリティ

 
サステナビリティは既にコストではなく、利益を生み出す投資へと変貌し始めている。

例えば、ドイツのディスカウントスーパーであるLidlが食品のサステナビリティを示す「エコスコア」を導入した際、エコスコアが高い商品の方が選ばれやすいことを確認(※注1)している。また、欧州を中心に食品のエコスコア表示は浸透し始めており、製品ごとのサステナビリティの可視化は世界でスタンダードとなっていく可能性が高い。

定量的なサステナビリティ基準を満たせない製品・企業は、株主だけではなく消費者からも選ばれない企業になっていき、利益を失うことになるだろう。

さらに、COVID-19を経て消費におけるサステナビリティの重要性はますます高まっている。ローランド・ベルガーが2020年に実施したグローバル調査では、34%がCOVID-19 以前に比べてサステナブルな消費かどうかを重要視するようになったと回答している。そして、日本でも29%の消費者がサステナビリティを重視するようになったと回答した。(図2)

食のサステナビリティは、海外だけではなく、日本でも利益に直結する重要なトピックになり始めているのである。

環境負荷軽減の鍵を握る「原料生産」

 
「サステナビリティ」には、GHG排出量減少、土壌・水質汚染防止、フェアトレード、動物福祉等幅広い領域が包含されるが、その多くにおいて、農業や漁業・養殖業といった原料生産領域が削減の鍵を握っている。

例えば一般的な食領域でのGHG排出量を見ると、7割以上は農業領域に起因する。土地利用を除く純粋な農業生産に絞っても4割が農業由来といえ、加工・輸送・小売等の領域と比して10倍のGHGを輩出している。(図3)

つまり、原料生産領域は「サステナブルな食」実現のために対応せざるを得ない重要な領域なのである。

そのため、原料生産領域における新技術への投資は既に過熱しており、例えば使用する水・農薬・土地等を削減することができる「垂直農法」領域での大手プレイヤー・Plentyはウォルマート、ソフトバンク等の投資家らから9.4億ドル以上、InfarmはJR東日本を含む投資家らから6.5億ドル近い資金を調達している(※注2)

原料生産領域がサステナビリティのほとんどを支配する状況下において、原料生産領域を有さない食品メーカー・食品小売企業はどのようにサステナブルな食を実現し、今後の利益を確保していくべきか。その手段は2つあると考える。

食品メーカー・食品小売企業がサステナブルな原料生産に関わるための2つの手段

 
食品メーカー・食品小売企業が選ぶべき道の1つは買収等を通じて原料生産領域へ自ら進出すること、もう1つは原料生産を行うパートナーに対して強力な支援を行い、サステナビリティの実現をサポートすることである。

原料生産領域への進出は戦略としては明確だが、前述の通り原料生産領域への投資は過熱しており、現時点からの参入は容易ではない。食品メーカー・食品小売企業にとって重要なのは、自社として提供すべき価値、つまり「尖り方」を明確化することだと考える。

二酸化炭素、GHG、土地、水等全ての領域で完璧なサステナビリティを求める場合、多くの企業にとってパートナー候補の探索、投資資金の捻出共に容易なことではない。そのため、どの領域は他社並みとし、どの領域では他社に負けないトッププレイヤーを目指すかを明確化し、そのビジョンに合致したパートナーを選択していくのが大切なのではないか。

領域の選択は、自社の持つ製品群の特性、自社アセットの特性、企業ビジョンとの整合性等から検討していく必要がある。まずは目指すべきサステナビリティ戦略を策定・明確化することが、将来の利益確保に向けた重要な一歩だろう。

2つ目のオプションである支援についても、難易度は高い。原料生産企業は多くの場合食品メーカー・食品小売企業と比して小規模な企業が多く、自力での改革は資金面から難易度が高いケースが多い。また、より高コストな品種や栽培・飼育・養殖方法を選択することで立ち行かなくなってしまう企業も多いだろう。

そのため、他社を巻き込んで強力な支援スキームを構築することが重要だと考える。例えば、英TESCOや米ウォルマートが実際に行っているように、サステナブルな生産を行うサプライヤーに対して低利子融資を行う等、サプライヤーへ具体的な経済的メリットを提示し、取引先のサステナビリティ向上をサポートしていくことが有効になりうる。(図4)

TESCOのように1社でスキームを構築できない場合、同業他社と提携の上、複数社で投資等を行い支援する方法も考えうるだろう。

日本の食品メーカー及び食品小売企業は今まさに岐路に立たされている。もはやサステナビリティはコストではなく、利益を生み出す投資手段となっている。今サステナビリティを真剣に考え、投資しなければ、世界でも、日本でも利益確保の機を逃すこととなる。

自社がどういった領域を重視し、いつまでに何を実現するのか、そしてどういったパートナーとどのように提携してくのかを改めて検討してはどうか。

 

注1:エコスコアの複雑性等により十分な意思決定への影響力は発揮できなかったとしたものの、より評価が高い製品をA、最も評価が低い製品をEとして評価したうち、Bの製品とCの製品の間では特に大きな変化がみられ、特に持続可能性を重視する消費者層、39歳以下の年齢層に対しては特にポジティブな効果を発揮したことを発表(Lidl “Auf dem Weg zu einer transparenten Nachhaltigkeitskennzeichnung“ https://unternehmen.lidl.de/pdf/show/51552
注2:いずれも2022年9月16日時点・Crunchbase参照
図1:Stoxx、CDP参照にRoland Berger作成。STOXX® Global Climate Change LeadersはCDP”A list” databaseに基づき、カーボンリーダーズを含む企業群
図2:Roland BergerとPotlocが2020年6月から2020年8月までの間に実施したアメリカ、イギリス、イタリア、サウジアラビア、スペイン、中国、ドイツ、日本、フランス、ブラジル、UAE(アラブ首長国連邦)の計11か国・20都市住民に対する消費者調査https://rolandberger.tokyo/rolandberger-asset/uploads/2021/01/CGR-COVID-19-Global-Study.pdf
図3:Our World in Data参照。https://ourworldindata.org/greenhouse-gas-emissions-food
図4:TESCO参照。WWF、KPMGとも提携。https://www.tescoplc.com/news/2021/tesco-set-to-become-first-uk-retailer-to-offer-sustainability-linked-supply-chain-finance/

SHARE THIS PAGE

CATEGORY TOP