サーキュラーエコノミーに向け始まる多様なイニシアティブ
2019年以降、GAIA-X、 DPP、Catena-X等、多様な政策が欧州中心に相次いで開始している。(図1)
これらイニシアティブにて注目すべき共通項は大きく3点。1点目は、対象領域としてサプライチェーンの裾野が広い自動車業界を中心に始まっていること。2点目は、「データ」の取扱いによりサーキュラーエコノミーの実現を志向すること。資源循環には、製品・材料のデータを正確に把握し、企業間で統一の規格による共有が必要ゆえ、イニシアティブへの参加企業には、データ整備が求められる。3点目は、欧州外のデータ/ソフトウェア関連プレイヤーの参画もみられること。例えば、IBM、Cisco、Microsoft等の米系企業に加え、Fujitsu、日立製作所等、データの規格整備に長けた日系企業にも裾野が広がっている。
車載電池から施行されるDPP
DPPとは、サーキュラーエコノミーを促進すべく、製品の情報を記録する「電子パスポート」である。製品情報には、製品の全ライフサイクルにおける重要なデータとして、製造元、使用材料、リサイクル性、解体方法や利用履歴等が含まれる。最終的にはあらゆる業界・製品を対象にする構想だが、直近では、2022年に採択された欧州電池規則に即し、車載電池を皮切りに開発が進んでいる。
開発が進む中、DPPへの不安も、いくつかのOEMから寄せられている。例えば、ある欧州OEMのバッテリーリサイクル部門ヘッドは「データはOEMにとっての差別化要素ともなりうるため、データ共有に対してはセンシティブになる」。別の欧州OEMのサーキュラーエコノミー部門ヘッドは「DPPの重要性は理解しているものの、実際にデータを整備するのには時間がかかる」等の懸念を口にしている。
しかし、DPPに対応できなければ、サプライチェーンから締め出されるリスクもある。弊社としては、欧州OEM数社の関係者へのインタビューも経て、大きく3ステップでDPPに対して最低限備えることが重要と考えている(図2)。
まずは、DPPの正確な理解を基に、シンプルな社内タスクへの整理から始めるべきである。続いて、場合によっては法・制度周りのエキスパート投入も視野に入れながら、関連部署やサプライヤーに対し、対応すべき内容をシンプルかつ丁寧に説明する「コミュニケーション」も重要。そして最後に、DPPがローンチされてから、迅速にタスクを「実行」に移す流れで進めるべきと考えている。
DPPによる新たなオポチュニティ
DPP導入は対応が必要となる負の面のみではなく、新たな事業機会とも言える。昨今のレアメタル争奪戦に伴い、リサイクル・リユースへの期待は更に高まっている。例えばVWは2021年から自前工場でリサイクルに着手も、2022年にはRedWood Materials(米)やJX金属(日)との提携実証も加速している。リサイクル技術進化・処理キャパシティ強化に加え、そもそもの受入増に向けて、データを活かしたSoH (State of Health) モニタリングやユーザへの自社系列静脈チェーンへの持ち込み喚起なども重要となりえる。
加えて、データ整備に伴い、車載電池を取り巻く診断/修繕・リース・保険などの事業機会も台頭しうる。例えば、車載電池の残価評価を進めるBACEコンソーシアムはEV普及の進む中国にて損保・リース会社を巻き込んでユースケースを検証、2022年10月にはNTTデータがデンソーとBEV車載電池の業界横断エコシステム構築を発表する等、データ整備に伴って自動車系プレイヤーに限らず、注目すべき領域となっている。
この変化をどのように捉えるのか
自動車系プレイヤーとしては、先行する欧州プレイヤーの動向に鑑みてもDPP対応の飛躍的効率化は図り難く、「やるべきことを明確化して粛々と対応」する必要がある。寧ろ同時に狙えうるチャンスに対し、早く具体的に描き、検証し、立ち上げていくことを考えても良いのではないか。
また周辺事業者としては、データ整備に伴う新たな事業機会と捉えることが出来る。その際、業界横断の検討となりうる点、BEV化の進行が欧・中・米などがより早く進むことを配慮の上で、事業案を早く描きその実現性を検証していくことが必要ではないか。
共著:武井柾樹(シニアコンサルタント / 東京オフィス)