モビリティ・自動車

欧・中・韓の参入で成長が加速するインドのEV市場

伊澤                            範彦

伊澤 範彦

プロジェクトマネージャー/東京オフィス


 
インドの自動車市場の成長が著しい。2022年には、販売台数ベースで日本を抜き、世界第3位の市場に浮上した。
それだけではない。インドのEV市場が胎動している。地場系は勿論、欧州・中国・韓国系の有力自動車メーカーが相次いで参入し、市場が急速に立ち上がり始めている。
本稿では、インドのEV市場に参入しているか、もしくは参入予定の主要メーカーの顔触れ・投入車種を概観している。

Key Facts
 1)インドの国内新車販売台数(2022年): 473万台(日本は420万台)
 2)Tata Motorsの累計EV出荷台数(2021年8月~2022年11月): 5万台
 3)BYD AutoのインドEV目標販売台数(2023年内):5万台


 

日本を抜き世界第3位に浮上したインドの自動車市場

 
SIAM(インド自動車工業会)が2023年1月13日に公表したデータによると、インドの2022年(1月~12月)の国内新車販売台数(乗用車・商用車合計)は、約473万台に達し、同期間における日本の約420万台を上回り、中国・米国に次ぐ世界第3位の自動車市場に躍り出た。

インドの自動車市場は、引き続きの人口増加(2023年中には、人口減少に転じた中国を抜いて、世界最多となる見込み)と、モータリゼーションの進化(二輪から四輪への移行)の掛け算により、更に拡大して行くことが想定されている。

販売台数公表とタイミングを合わせる形で、1月13日から18日までの6日間に亘り、デリー首都圏のグレーター・ノイダにて、SIAM・ACMA(インド自動車部品工業会)・CII(インド工業連盟)による第16回Auto Expo 2023が開催された。

Auto Expo 2023では、インド市場で激戦を繰り広げる世界各国の自動車メーカーによる新車発表が相次いだ。特筆すべきは、各社が、既にEV展開を積極的にアピールし始めている点であろう。

地場系・中韓系・欧州系が相次いで参入するインドのEV市場

 

 
2021年時点で、インドのEV普及率は僅かに0.2%と、ないに等しい水準であった。しかし、地場系最大手(全体では、Marti SuzukiとHyundaiに次ぐ第3位)の自動車メーカーであるTata Motorsによる積極的なEV攻勢により、2022年に市場は急速な立上りを見せた。2022年11月9日には、Nexon EV・Tiago EV・Tigor EVの3車種により、Tata Motorsの累計EV出荷台数は5万台を突破している。最初の車種Tigor EVを2021年8月に上市してから、僅か1年余りでの快挙である。

現状、インドのEV市場は、タタ財閥の総力を結集してEV普及に必要なエコシステム(充電網、販路、バッテリー製造等。総称して「Tata UniEVerse」)を揃えたTata Motorsの一強だ。しかし、EV市場の急速な立上りを受け、その他のプレイヤーも参入を加速させている。従来のICE車市場では、日系のMarti Suzukiがシェアの半分を占める構図が長らく続いて来た。しかし、新興のEV市場では、競争環境が異なり、地場系・中韓系・欧州系メーカーが主要プレイヤーの顔触れとして並ぶ。

まず、地場系では、前述のTata Motorsに加え、シェア第4位のMahindra & Mahindra(以下、Mahindra)もEV事業を積極的に推進している。

Tata Motorsは、Auto Expo 2023で、新たにSafari EV(SUV)・Harrier EV(CUV)・Altroz EV(サブコンパクトカー)の投入を、また、それに先駆けた2022年12月には、Punch EV(サブコンパクトCUV)の投入を矢継ぎ早に公表している。この4車種は、Nexon・Tiago・Tigor同様、既存のICE車種をEV化しているに過ぎない。しかし、EVポートフォリオを急速に拡大することで、Tata Motorsは急成長するEV市場で支配的なポジションを築こうとしている。

また、既存ICE車種のEV化に加えて、Tata Motorsは、完全なるEV新車種であるCurvv(SUVクーペ)、及び次世代の「Gen 3」アーキテクチャに基づくEVであるAvinya(SUV)のコンセプトも公表しており、EV開発に掛ける熱意は凄まじい。

一方のMahindraも、2023年1月25日より、初のEV車種であるXUV400の予約受付を開始している。Mahindraは、VolkswagenのEVプラットフォームである「MEB」を採用した車種を、2025年までに5つ投入すると公表しており、XUV400はその第一弾に当たる。XUV400は、Tata MotorsのNexon EVの競合車種であり、2023年中の販売台数目標は、強気の2万台だ。

Tata MotorsもMahindraも、自国ながらICE車市場ではMarti SuzukiやHyundaiという外資系の後塵を拝しており、EV市場では主導権を握ろうとする意気込みを感じる。両社共、EV事業を夫々Tata Passenger Electric Mobility(TPEM)、4 Wheel Passenger Electric Vehicleという独立会社として切り離し、経営に機動力を持たせた上で、前者はTPG Rise Climate Fund、後者はBritish International Investmentという外部のインパクト投資家からも資金を受け入れることで、潤沢な開発資金を確保している。

翻って、中韓メーカーのインドEV市場参入を見てみると、中国系ではBYD AutoとMG Motors、韓国系ではHyundaiが積極化させている。

中国最大のEVメーカーであるBYD Autoは、2022年8月にミニバンのe6を投入してインドEV市場に本格参入しており、同年12月には、人気のSUVセグメントで、Atto3を上市するなど、事業を拡大している。加えて、Auto Expo 2023では、第3弾となる高級セダンのSealを、2023年第4四半期までに投入することを公表しており、2023年中の販売台数1.5万台を目標に掲げている。

一方、中国の三大自動車メーカーであるSAIC(上海汽車)傘下の新興国向けブランドMG Motorsは、既にインドICE車市場には参入済みだが、ハッチバックのMG4 EVをAuto Expo 2023で披露しており、EV市場への参入に向け、消費者の反応を伺っていると語っている。

Hyundaiは、元よりインド市場に注力しており、堅調にシェアを伸ばしながら、2021年時点では22%と、第2位の座に付けている。2022年12月には、Ioniq5(XUV)の予約受付を開始し、本格的にインドEV市場に参入している。Auto Expo 2023では、他にも新型セダンであるIoniq6や、兄弟ブランドであるKiaのコンセプトカーEV9を展示しており、EVメーカーとしてのプレゼンスも訴求し始めている。

BYD Auto・MG Motors・Hyundaiの特徴は、既に自国、ないしグローバルで展開済みのEV車種を持っており、それをインドに持ち込めば容易にEV市場に参入出来る点だ。また、その分、EVとしてのブランド・実績も有する。BYD Autoは世界最大のEVメーカーであるし、MG MotorsやHyundaiは、既にICE車市場では一定程度の知名度があり、そのメーカーのEVとなれば、ブランドも自ずと付いて来る。

最後に、欧州系大衆車メーカーの動向を見てみよう。まず、Volkswagenは、前述の通り、MahindraにEVプラットフォームMEBを提供しているのに加え、グループ傘下のSkodaブランドのインド展開に注力している。Volkswagenは、グループ傘下企業に各地域の「リード担当」を割り振っており、Skodaがインドを担当している形だ。Skodaは、インドでのEV展開を表明しており、2023年中に、MEBに基づき開発したSUVのEnyaq iVを本格投入すべく、まずは少数の車両を持ち込んで市場調査を実施するとしている。

Stellantisは、傘下のCitroenブランドが、Auto Expo 2023で、インド市場向けに特別設計されたコンパクトSUVのeC3(ICE車C3のEV版)を2023年2月に発売すると公表した。eC3は、最高速度は僅か103kmと、性能を抑えており、その分、エントリー価格90万ルピー(約150万円)という安価を実現している。価格としては、Tata MotorsのTiago EVと競合する位置付けだが、一般消費者ではなく、企業向けフリート販売を狙っている。フリートに環境対応車を採用することで税制優遇を受けられる企業に対し、EVを推奨して行くことで、販売台数を増やす戦略だ。

これまで見て来た通り、2022年にTata Motorsの尽力により急速に立ち上がったインドEV市場は、2023年に入り、地場系両雄のもう一つであるMahindraや、グローバルでEV展開を積極化している中韓・欧州系メーカーの相次ぐ参入により、更なる活況を呈し始めている。

日系企業はインド市場攻略の道筋を描けるか

 
日系メーカーとしても、興隆しつつあるインドEV市場の成長を取り込むべく、攻略の道筋を描く必要がありそうだ。

インドの自動車市場は、急速に変化を遂げている。市場が未成熟であった頃に参入したMarti Suzukiは、強力な競合が存在しない間隙を突き、市場シェアの半分を占めるポジションを築いた。しかし、近年は、SUV市場の成長の波に乗り遅れ、シェアを40%超にまで落としている。

EVに関しても、市場の成長スピードは目覚ましく、かつてのICE車市場とは異なり競合も多い。しかも、EVは、必ずしも日系メーカーが競争優位性を有する領域でもなければ、プラットフォームを活用すれば、新興企業でも参入し易い。

今後、世界的に自動車のEV化が進んで行く中で、世界第3位の市場であるインドをどう攻略するか、考えるべきタイミングに来ている。


SHARE THIS PAGE

CATEGORY TOP