新型コロナウイルス COVID-19の流行はどのような地政学的変化を引き起こすか

2020年5月、東京発-ローランド・ベルガーは、新型コロナウイルス(COVID-19)に関する最新スタディ「新型コロナウイルス COVID-19の流行はどのような地政学的変化を引き起こすか」を発表いたしました。本スタディでは、今回のウイルス感染拡大が、人・国にどのような影響を及ぼし、その結果、世界でどのような地政学的変化が起きるのか、また、それに伴い、経済・産業はどのような変化を見込むのかについて、3つのシナリオを想定し、分析致しました。最後に、その分析を踏まえ、企業活動に対する示唆を抽出しています。

要旨
新型コロナウイルス(COVID-19)は、世界中で多大な経済的・社会的影響を及ぼしている。その影響は、人々の行動・考え方を変化させ、従来は是とされていた価値観を変容させつつある。このような状況下、企業には、Post COVID-19を見据えた備えを行うことが求められている。
今回、弊社はCOVID-19がもたらした、人々の価値観を変化させるドライバーについて整理し、そのドライバーにより引き起こされる価値観の変化を分析した。それを踏まえ、COVID-19のインパクト、およびCOVID-19への対応における国際政治的判断の方向性により3つのシナリオを想定、分析を行った。

今回我々の想定した、COVID-19がもたらした人々の価値観を変化させるドライバー及び、それにより形成されるビジネスの価値観は以下の通り。

図:Post COVID-19の価値観を形成するドライバー及びそれにより形成されるビジネスの価値観

これらの内、2、3、4のドライバーは、COVID-19そのもののインパクト、COVID-19への対応における国際政治的判断の方向性により、寄与の有無、寄与度が異なる。我々は、その差異に基づき、下図のような3つのシナリオを想定した。

図:Post COVID-19の地政学的シナリオと、それを決定づける因子

各シナリオにおいては、以下のような国際関係・産業・投資の変化が想定される。

-シナリオA: ナショナリズム加速化
 ➢国際関係: 経済活動は各国に閉じ込み、国間の協調は激減。それにより、国間の格差が拡大。資本力の強い米中が相対的に優位になり、世界が米中を中心に二分される可能性。
 ➢産業: エネルギー産業では、外部資源依存度低減に向けた動きが、製造では製造の地産地消型への移行に伴う自動化・省力化が進行。また、非接触ニーズ増加に伴い、物流の無人化も進行。交通関連産業は、人の移動の激減に伴い、事業の再構築が求められる。
 ➢投資: 安全・安心といったニーズの増加に伴い、国防や医療への投資の増加を見込む。

-シナリオB: ネオ・グローバリズムの幕開け
 ➢国際関係: 経済活動がCOVID-19以前に近い状態に回復する中、より早期の回復を見込む中国の国力が相対的に増大。一方で、資本主義国の「竹のカーテン」発動による、脱中国化も想定される。
 ➢産業: 製造において、脱中国化による生産拠点の多角化を見込む。
 ➢投資: サプライチェーンの再構築に伴い、新興国向けの建設投資が増加。

-シナリオC: 脱中国での経済復興
 ➢国際関係:国際間の協調がより活性化。財政援助・貿易が盛んになり、国力が平準化。
 ➢産業: 製造では、バーチャルで繋がる新たなVCが構築。物流では、シナリオAと同様に無人化が進行。交通は、ある程度の規制の下で一定回復。小売では、国際協力加速により越境EC活用が進む可能性あり。
 ➢投資: 国際協調の進展に伴い、投資の一部が軍事から医療へシフト。

また、各シナリオにおける日本・中国・欧州・米国のGDPの推移予測は以下の通り。

図:主要地域のシナリオ別GDP推移予測

シナリオにより方向性に差異が存在するものの、いずれの場合においても、COVID-19による不可逆的な変化が、国際関係や産業、投資の在り方に大きな変化をもたらすことは避けられない。
その為、各企業には、地政学的リスクの地殻変動を鑑みた、バリューチェーンや保有アセットといった事業基盤の再構築や、リセットされた新たな価値観を充足する価値提供の在り方の再定義が必要である。COVID-19環境下での足固めを実施するだけでなく、Post COVID-19という、新たな世界も見据えた対応が、企業には求められている。

※本スタディはこちらよりご覧ください