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アパレル産業の未来-国内アパレル企業の課題と進むべき道-

ローランドベルガー

福田 稔

日本ではアパレル不況が叫ばれて久しいが、グローバルではアパレル産業は依然として成長産業に属する。弊社の最新の予測では、グローバルのアパレル市場は、2025年までに実質ベースで年平均成長率3.6%、物価変動を加味した名目ベースで7.6%の成長余力があり、2015年に1兆3,060億ドルだった市場規模は2025年に2兆7,130億ドル(名目ベース)にまで成長する。その中で、グローバルで成長しているアパレル企業の勝ちパターンは、①高付加価値型(ラグジュアリー、アクセシブルラグジュアリー)、②グローバルSPA型、③カテゴリーキラー型の3つに分けられる。これらの企業は、国内アパレル企業には無い高い収益性と成長性を誇っている。

一方、日本のアパレル企業は、ファーストリテイリングや良品計画などのごく一部を除きグローバルでの勝ちパターンを実践できていない。少子高齢化を起点として国内市場が厳しくなることは10年以上前から分かっていたことであり、他の消費財業界では積極的にグローバル展開が試みられてきた。ところが、アパレル業界では少なからずの企業により海外進出が試みられてきたものの成功ケースが少なく、未だに殆どの企業がガラパゴスの国内市場に留まり遅遅として海外展開が進まないのが現状だ。業界全体としてはグローバル展開の遅れが大きな課題であるにも関わらず、依然として「アパレル不況」にはじまる国内市場中心の議論を重ねている。

今後、国内アパレル市場では、二極化の進行と中間価格帯であるトレンドマーケットの落込みが益々進行する。トレンドマーケットでは消費者セグメントの細分化に伴い、服に対する好みや服の買い方は益々多様化され、デジタルがもたらす変化も相まってトレンドの小粒化と短サイクル化が進行する。グローバルと比較すると中間価格帯市場が大きかった日本の特徴は徐々に薄まり、ラグジュアリーとマスボリュームに二極化するという欧米型の市場構造に近づいていく。このような中で、ラグジュアリー市場とマスボリューム市場では、グローバル企業の存在感が増していく。一方、中間価格帯のトレンドマーケットでは、市場の縮小とトレンドの小粒化・短サイクル化の同時進行が起き、市場を面で押えることが難しくなる。言い換えると、国内のトレンドマーケットのみで大きな売上を作ることは益々困難となる。

国内市場に頼る大手企業が苦しむ一方、個性のあるデザイナーズブランドやストリートブランドといった次代の芽はこれまで以上に台頭してくる。デジタリゼーションが進む中で、現在は10年20年前と比較すると、アパレルビジネスへの参入障壁が格段に低くなった。バリューチェーンを支えるためのプラットフォーマーの登場により、トレンドマーケットでは才能のあるデザイナーによる新しいブランドが活躍しやすい環境となっている。ZOZOタウンを擁するスタートトゥデイや、ファーフェッチのようなグローバルECプラットフォーム、ECビジョンのようなサプライチェーンプラットフォームは、プラットフォーマーの典型例である。中間価格帯では、従来型のサラリーマンアパレル組織は(グローバル化を試みない限り)縮小均衡の一途を迫られ、市場では表向きには多くの小規模アパレルブランド、ショップが乱立する一方、裏ではアパレルのバリューチェーンを補完するプラットフォーマーが、一部では商社の機能を代替し、規模を拡大するという市場構造となる。正に、従来型のバリューチェーンのディスラプト(破壊)と再構築が起こるだろう。

国内アパレル企業が、次の10年、20年を勝ち残るためのオプションは多くは無い。一定規模の企業が更なる成長を求めるのであれば、グローバルでの勝ちパターンを踏まえつつ海外進出にチャレンジするしかない。一方、大極的な視点に立てば、ようやく日本も国として、ファッションやライフスタイルにおいて本格的に世界へ影響を持てるステージに来たところである。国内アパレル企業は、服が売れないなどと国内市場を嘆くのではなく、もう一度世界進出と産業界全体の成長にチャレンジするタイミングでないだろうか。